専門委員会成果物

類似特許による過去訴訟の結果に基づく争点効を認めなかった事例

CAFC判決 2018年11月14日
ArcelorMittal Atlantique et Lorraine, et al. v. AK Steel Corporation

[経緯]

 ArcelorMittal Atlantique et Lorraine社(AM社)は,金属加工のホットスタンピング用の鋼板についての特許6,296,805(’805特許)と’805特許の再発行特許RE44,940(RE940特許) を保有している。
 AM社は2010年にAK Steel Corporation(AK社)の製品“AXN”(製品X)が’805特許を侵害しているとして提訴している(以後,当該2010年の訴訟を過去訴訟と記載)。’805特許は, 鋼板の成分,および,鋼板は非常に高い機械抵抗を有することをクレームで規定し,過去訴訟において,この非常に高い機械抵抗は1,500MPa以上を意味すると解釈された。過去訴訟では, 製品Xの引張強度(UTS,クレーム規定の機械抵抗に相当)は1,442MPaであり,均等論の適用も無く非侵害という結果に終わっている。
 その後,AM社はAK社の製品“ULTRALUME”(製品Y)がRE940特許を侵害しているとして地裁に提訴した。RE940特許は,過去訴訟における’805特許のクレーム解釈がクレームに明記されて いる点で差分があるが,実質的に’805特許と同等のクレーム規定である。AK社は,製品Yの鋼板は,製品Xと同一であるので,争点効がありRE940特許を侵害しないと主張した。一方, AM社は,AK社の製品Yによる自動車部品が1,400MPa以上のUTSを有することを示す販促パンフレット,およびAK社の鋼板が1,500MPaのUTSを有することを示すオンラインセミナー資料を 新たな証拠として提示したが,地裁は,ホットスタンピング前の製品Yの鋼板は過去訴訟の製品Xと同等であるとの認定に基づき,争点効ありと判断した。        

[CAFCの判断]

 CAFCは,防御的な争点効が適用されるためには,被疑侵害品が過去訴訟において非侵害と判断された製品と実質的に同一であるという事実が立証される必要があるとした。その上でCAFCは, 本件訴訟で提示された証拠について下記のように認定した。
  • 上記オンラインセミナー資料は,AK社の鋼板のUTSが1,500MPa以上であることを示し,製品Xと製品Yとで材質の変化があったことを反映している。
  • AK社の販促パンフレットは,ホットスタンプによる位相変化で強度が600MPaから1,400MPa以上に高まっていると記載しており,AK社の製品が過去訴訟以降に変化したこと, および,製品Yが1,500MPa以上のUTSを有するという主張を支持する。
 以上の認定に基づき,CAFCは,AK社が争点効適用のための事実を立証できておらず,提示された証拠からはAK社の製品Yの鋼板は製品Xと同一ではないと認定されるので, 過去訴訟に基づく争点効は発生しないと判示した。

(鈴木 信一郎)

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