専門委員会成果物

非侵害及び無効の確認判決において,人的管轄権のミニマムコンタクトを示すには,特許権者による当該管轄地における権利行使を示す必要があることを示した事例

CAFC判決 2018年11月29日
Maxchief Investments Limited v. Wok & Pan, Ind., Inc.

[経緯]

 Maxchief Investments Limited(MA社)は,折り畳み机UT-18を製造する中国を主たる事業地とする企業である。UT-18は,テネシー州を拠点とするMeco社(ME社)を独占的な流通業者とし, 小売業者のStaples社(S社)及びColeman社(C社)を通じて販売されている。Wok & Pan, Ind., Inc.(W社)も,折り畳み机を製造する中国を主たる事業地とする企業であり,折り畳み机に 関する特許を複数保有している。
 W社は,UT-18についてS社を被告に特許権侵害訴訟をカリフォルニア中央連邦地裁に提起した。S社はME社に訴訟防衛を要求し,次にME社がMA社に訴訟防衛を要求した。一方,MA社は W社を相手に,特許非侵害及び特許無効の確認判決を求める訴えをテネシー東部連邦地裁に提訴した。MA社はまた,テネシー州法に基づきビジネス関係の不法な妨害(tortious interference) についても争った。地裁は,確認判決の主張については人的管轄権がないと判断し,不法な妨害の主張については,事物管轄権があることが示されていないと判断し,MA社の請求を棄却した。 MA社はこの判決を不服とし,CAFCに控訴した。     

[CAFCの判断]

 CAFCでは,確認判決の主張及び不法な妨害の主張に対する,人的管轄権の有無が争点となった。
  1. 確認判決の主張に対する判断
     CAFCは,人的管轄権の主張には,ロングアーム法及び憲法に基づく適正手続きに従い,被告が当該裁判地にミニマムコンタクトを有することを示す必要があるとした。そしてCAFCは, 確認判決の主張においてミニマムコンタクトを示すには,特許権者による当該裁判地における権利行使を示す必要があるとした。
     MA社は,W社によるS社に対する訴訟は広範な差止めを請求しており,S社の流通業者であるテネシー州のME社にも影響が及ぶと主張した。しかし,CAFCは,当該訴訟はカリフォルニアの事案であり, 示されたテネシー州への影響の可能性ではミニマムコンタクトの要件を満たさないと判断した。
     また,MA社は,W社がテネシー州のMA社代理人に対して送付した,カンザス州にあるC社の被疑侵害行為に関する警告状がミニマムコンタクトを成立させると主張した。しかし,CAFCは, 当該警告状はカンザス州とのコンタクトを示すに過ぎず,また,単なる警告状の送付では人的管轄権の要件は満たさないとした。
  2. 不法な妨害の主張に対する判断  
     CAFCは,当該主張に関しては,警告状の送付により人的管轄権が認められ得ると判断した。しかし,本件において警告状の送付先はカンザス州にあるC社であり,テネシー東部連邦地裁に 人的管轄権はないと判断された。

(中村 有希子)

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