専門委員会成果物

特許侵害を訴える書簡を送っても人的管轄権を立証することができないという基準は存在しないことを示した事例

CAFC判決 2018年12月7日
Jack Henry & Associates, Inc., et al. v. Plano Encryption Technologies LLC

[経緯]

 Plano Encryption Technologies LLC(P社)は,知的財産の行使を唯一の事業としており,テキサス州東部地区に事業所を登録している。P社は,テキサス州北部地区に拠点を持つ11の銀行に対し 書簡を送付し,P社が保有する銀行のソフトウェアに関する特許を侵害しており,ライセンス締結を求める旨を通知した。Jack Henry & Associates, Inc.(J社)は,モバイルアプリ用のソフト ウェアを各銀行に提供しており,侵害に対するいかなる責任も負うとしている。
 J社と各銀行は,P社の特許が無効であり,また,P社の特許を侵害していないという確認判決を求めてテキサス州北部地区の地裁に提訴した。これに対し,P社は,テキサス州東部地区に事業所を 登録しているため,テキサス州北部地区にはP社の人的管轄権がなく,裁判地が不適切であると主張した。地裁は,Avocent判決(Avocent Huntsville Corp. v. Aten Int’l Co., 552 F.3d 1324, 1333 (Fed. Cir. 2008))を引用し,侵害を訴える書簡では人的管轄権を立証するには十分ではないとして,P社の主張を認めた。J社と各銀行はこれを不服とし,CAFCに控訴した。      

[CAFCの判断]

 CAFCは,Avocent判決が「侵害を訴える書簡では,人的管轄権を立証させることができない」という基準を確立したものではないと判事した。そして,P社がテキサス州東部地区に事業所を登録して いるにもかかわらず,P社の唯一の事業が知的財産を行使することであり,知的財産の行使は,侵害を訴える書簡をテキサス州北部地区にある銀行に送ることによって,テキサス州北部地区の 裁判所で行われるため,人的管轄権は「合理的かつ公正」であると判断した。従って,CAFCは,侵害を訴える書簡を送付することが人的管轄権を立証させるのに十分であると判断し,地裁判決を 破棄し,再審理のために差し戻した。

(山田 敬祐)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.