専門委員会成果物

請求項の消極的限定(ディスクレーマー)に関する欧州特許庁拡大審判部審決(G 1/16)

  1. 背景・概要
    出願当時の明細書に開示されていなかった主題を請求項から除くように消極的に限定する(いわゆるディスクレーマー)補正に関し,EPO技術審判部は,審決(T 437/14)において, これまでのEPO拡大審判部による審決(G 1/03及びG 2/10)で示された当該補正の適格性に関する判断規準をどのように適用するかについての質疑をEPO拡大審判部へ付託していた。 これに対してEPO拡大審判部は2017年12月18日付けの審決(G 1/16)にて,G 2/10審決における規準の適用については否定し,G 1/03審決における基準を適用すべき旨の回答を示した。
  2. EPO技術審判部から審決(T 437/14)において付託された質疑
    G 2/10審決で示された,欧州特許条約(EPC)第123条(2)に基づく出願当時の明細書に開示されていた主題を請求項から除くディスクレーマー補正の適格性を判断するための規準, すなわち,当業者が共通の一般的知識を用いて,当該ディスクレーマー補正を行った後の請求項に残る主題が明示的または暗示的に,ただし直接的にかつ一義的に出願当時の明細書に 開示されているとみなせるか否かという判断規準は,出願当時の明細書に開示されていなかった主題を請求項から除くディスクレーマー補正にも適用されるか?
  3. EPO拡大審判部の審決(G 1/16)における回答
    G 2/10審決の規準は適用されない。欧州特許条約(EPC)123条(2)に基づき,出願当時の明細書に開示されていなかった主題を請求項から除くようにする補正が適格かどうかの判断を 行う目的においては,G 1/03審決におけるpoint 2.1に示される要件(*)の内一つを満たさなければならない。
    このように主題を請求項から除くようにする補正を行う際は出願の主題に対して技術的貢献を加えることになってはならない。特に,進歩性の評価や十分な開示の問題に関連するような ものにはなってはならず,新規性を回復するために必要な要素以上のものを除くものや,非技術的との理由により特許性から除外された主題を除くために必要な要素以上のものを除くものであってはならない。

    (*)G 1/03 Point 2.1概要
    下記を目的とするディスクレーマー補正は欧州特許条約(EPC)第123条(2)の違反にはならない。
    - 欧州特許条約(EPC)第54条(3),(4)に規定される未公開の特許出願に基づく新規性欠如を回復するもの
    - 欧州特許条約(EPC)第54条(2)に規定されるaccidental anticipationに該当する先行技術文献(本願請求項
     の発明とは無関係でかけ離れた技術であり, 発明時に当業者であれば考慮に入れなかったと考えられる
     先行技術)に基づく新規性欠如を回復するもの
    - 欧州特許条約(EPC)第52条-57条に規定される非技術的な理由により特許性から除外されるべき発明の
     主題を除くもの

  4. その他 EPO拡大審判部は本審決(G 1/16)において,出願当時の明細書に開示されていた主題を請求項から除くディスクレーマー補正については,G 2/10審決の規準が適用される点について確認している。

欧州特許庁(EPO)プレスリリース
https://www.epo.org/news-issues/news/2017/20171220.html

拡大審判部審決(G 1/16)全文
http://www.epo.org/law-practice/case-law-appeals/recent/g160001ex1.html

(参照日:2018年2月22日)

(田村 重文)

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