専門委員会成果物

Espacenet,欧州特許情報に無料アクセスできるようになって20年

 2018年10月19日,欧州特許庁(EPO)の無料オンライン特許検索ツールであるEspacenetが開設20周年を迎えた。このサービスは,EPO,欧州委員会,EPO加盟国による 各オンライン特許情報サービスを共通プラットフォームに統合させた先駆的な取組みの成果である。1998年10月19日の開設当初,特許情報の包括的なデータベースの 一つであったEspacenetは,開設後直ちに世界3,000万件の特許文書への無料アクセスを可能とし,今日では,100を超える国からの1億を超える特許文書を提供する までに成長して,最大級の技術情報源となった。
 EPOのCampinos長官は,「Espacenetの開設は,欧州特許制度や欧州のイノベーションにとって大きな節目であった。」と述べ,「Espacenetは,発明者や科学者, 技術者,研究者による特許情報の利用環境を整え,この分野のリーダとしてのEPOの地位を引き上げた。特に,小規模企業やアカデミアのニーズを満たすように設計 されたEspacenetは,世界中の最先端技術に対応し,中小企業や研究所,大学の研究開発活動を支援している。」と述べた。
 Espacenetは,特許に含まれる貴重な情報にユーザーがアクセスできるようにすることでイノベーションを促進させるといった欧州諸国の共通目的に根ざしたものである。 初の無料オンライン特許検索サービスであるIBM Patent Serverの成功によって,EPO加盟国は公的機関による無料インターネットツールの必要性を認識した。そして, 新しいツールが欧州において提供され,このツールは欧州ユーザーのニーズを最大限満たすものとなった。既に世界最大級の特許情報を収集し,加盟国特許庁との連携 をとっていたEPOだからこそ,このサービスを提供することができた。
 1日あたり25,000人のユーザーが利用するEspacenetは,現在最も頻繁にアクセスされる特許情報サービスの一つである。EPOは,ユーザーのニーズの進化にあわせて 開発と改善を続けている。例えば,データベースが益々多くの言語からなる特許文書を取り扱うようになったことで生じた言語障壁に対処するため,EPOは自動特許翻訳 ツールであるPatent Translateを開発した。2012年には,中国語や日本語,韓国語,ロシア語を含めた32か国語の無料機械翻訳を提供している。そして2017年には,EPOは 特許翻訳にニューラル機械翻訳技術を組み込むことでより正確な翻訳を提供し,現在では1日あたり20,000回の翻訳に使用されている。
 EPOは,Espacenetに他のツールやサービスをリンクさせることで更なる利便性を高めている。例えば,European Patent Registerでは,EPOでの欧州特許出願の審査状況 を確認でき,全ての文書を閲覧できる。2008年に考案されたFederated Registerでは,EPO加盟国に国内移行された欧州特許の登録後の法的状況を確認できる。Global Dossierにより,複数の特許庁に提出された同一発明に係る特許出願をより簡単に追跡できるようにもなった。現在,Espacenetでは,EPOのINPADOCデータベースを介して 世界の50の特許庁からの法的状況データも取り扱っている。

2018年はEPOの特許情報の記念年である。
 1978年:初の欧州特許出願の公開と,INPADOC法的状況サービスの開始。
 1988年:EPOが特許情報政策を採用。
 1998年:Espacenet開設。
 2008年:Federated European Patent Register構想が生まれる。

EPOニュース(2018年10月19日)
https://www.epo.org/news-issues/news/2018/20181019.html
Espacenet:20 years of free access to patent information in Europe
(参照日:2018年10月22日)

(石田 さゆり)

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