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〈中国〉専利法第四次改正案の公表と,パブリックコメント募集の実施

専利法第四次改正案が,2019年1月4日に中国全国人民代表大会常務委員会(以下,全人代常委会)より公表され,2019年2月3日まででパブリックコメント募集が実施された。 専利法第四次改正作業は,2011年から開始されており,2015年の専利法改正草案(送審稿)の公表以降の大きな動きとなる。
 本改正案は,全人代常委会によれば,以下3つの観点で作成されている。
  1. 専利権者の合法的な権益に対する保護を強化すること
  2. 専利の実施と運用を促進すること
  3. 専利権付与制度を改善すること

 以下,本改正案における主な改正点を解説する。

1−1.故意侵害の懲罰的賠償制度の導入(第四次改正案第72条,現行専利法第65条)
 米国などでは故意に侵害した場合には懲罰的賠償が認められている。本改正案では,専利権による保護の強化を図るため,同様の制度が盛り込まれている。
 米国や2019年7月施行予定の韓国では,損害額の3倍が上限とされているが,本改正案では5倍が上限とされており,先行して導入した他国よりも高い上限となっている。

1−2.法定損害賠償額の引き上げ(第四次改正案第72条2項,現行専利法第65条2項)
 専利権の保護の強化のため,故意侵害の懲罰的賠償制度の導入と共に,賠償金額の計算が困難である場合に人民法院が定めることができる賠償金額が引き上げられている。現行専利法では1 万元〜100万元であったが,本改正案では10万元〜500万元となっている。

1−3.信義誠実の原則・権利濫用の禁止(第四次改正案第20条(新設))
 専利権を濫用して,他人の合法的な権益を害したり,競争を排除,制限したりしてはならないことが明文化された。

1−4.医薬品に関わる専利権の期間延長(第四次改正案第43条2項,現行専利法第42条)
 現行専利法では,権利期間の延長に関する規定が存在しなかった。本改正案では,日本などと同様に,承認審査にかかった期間を補償する目的で導入されている。延長期間は5年以内であるが, 発売後の総有効専利権期間が14年以内を上限とされている。日本とは異なり,中国国内と国外とで同時に医薬品の販売を申請する必要がある。

2−1.開放許諾制度の創設(第四次改正案第50条〜第52条(新設))
 ドイツやイギリスなどでは,特許権者が当該特許権について第三者への実施許諾を拒否しないことを宣言することによって,特許料の減額を受けられる制度(License of Right)が存在している。
 中国でも,特許料の減額の規定は盛り込まれていないものの,類似の制度が導入される。本改正案では,開放許諾とするためには,如何なる第三者への実施を許諾する意思を示すと共に,ライセンス料の 支払い方式・基準を明確にすることが求められる。
 なお,実用新案と意匠については,無審査のため,さらに専利権評価報告書の提出が必要となる。また,開放許諾中は,独占的又は排他的許諾を行うことができない。

3−1.意匠に関する国内優先権の創設(第四次改正案第30条,現行専利法第30条)
 意匠に関する優先権については,外国から中国に優先権を主張する場合にはパリ優先権が認められていた。一方で,国内優先権の制度が存在せず,内外の不平等が生じていた。
本改正案では,国内優先権制度を導入している。後の出願の期限は,パリ優先権と同じく,最初の出願日から6ヶ月以内である。

3−2.意匠権の存続期間の延長(第四次改正案第43条1項,現行専利法第42条)
 現行専利法では,意匠権の存続期間は出願日から10年であった。本改正案では,出願日から15年の存続期間が認められる。ハーグ協定では国際登録日から15年とされている。 中国はハーグ協定への加入を検討しており,ハーグ協定に合わせた改正案となっている。

 なお,2015年に公表された改正案では,部分意匠制度と間接侵害に関する規定が盛り込まれていた。しかし,このほど公表された第四次改正案からは削除されている。

(参考ウェブサイト)
日本貿易振興機構 ホームページ
https://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/opinion.html

(参照日:2019年2月14日)

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