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〈中国〉専利審査指南の改正,及び,特許出願集中審査管理弁法(試行)

中国,専利審査指南の改正

 2019年9月23日,国家知識産権局は,専利(特許,実用新案,意匠)審査の質及び審査効率を高めることを目的として,専利審査指南の改正を行うことを決定した(2019年11月1日施行)。
 本稿では,今回の専利審査指南改正を受けて,会員企業が中国で特許を権利化する際の方針及び戦略に関わる再分割出願,優先審査,及び遅延審査について紹介する。
  1. 分割出願の再分割出願の提出期限及び出願人・発明者を明確化(第一部分第一章第5.1.1)
     改正前の専利審査指南では,「分割出願について単一性不備が指摘された場合に該分割出願の査定が確定した後でも再分割出願を行うことができる」と規定され,再分割出願の 提出期限については明確に規定されていなかった。そのため,例えば,単一性不備の通知書の応答期限内に再分割出願を行わないといけない,又は該分割出願が査定された後にも 単一性の欠陥に関わる審査意見通知書により再分割出願を数回提出してもよい,など実務上の様々な解釈が存在した。
     本改正では,再分割出願の時期的要件は,「審査官により発送された分割出願通知書又は審査意見通知書において分割出願に単一性の欠陥があると指摘されたため,出願人が 審査官の審査意見に基づき再分割出願をする場合は,再分割出願の提出時期は当該単一性の欠陥がある分割出願に基づいて審査しなければならない。規定に合致しない場合, 当該分割出願に基づいて分割してはならない。」と明確化された。
     また,本改正では,再分割出願をする出願人は,該分割出願の出願人ではないといけないこと,及び,再分割出願の発明者は,該分割出願の出願人または出願人のうちの一部でないといけないことも明確化された。
    実務に対する影響
     中国では再分割出願の要件が日本よりかなり厳しく,子出願をさらに分割するときは,分割元の出願に単一性違反を指摘された場合を除き,親出願が係属中でなければ再分割出願を することができない。すなわち,日本のように分割出願を繰り返す出願戦略は中国では困難であるが,子出願について単一性が指摘された場合は,親出願の係属中でなくても, 例外的に再分割が可能であるため,単一性違反がある場合は,再分割出願のチャンスを創出できることは一考の価値があると考える。ただし,単一性違反に関する審査基準が 明確化されていないので,審査官によっては,単一性違反の指摘がされない可能性もあることを注意されたい。
     また,子出願に単一性違反が指摘されたときは,出願人はとりあえずクレームを削除する補正だけを行って応答し,後日,必要なときに分割出願をすることも一考の価値が あると考えられる。ただし,該分割出願が係属中でなければ,再分割出願できないことを注意されたい。
  2. 優先審査の特実併願の対応を明確化(第五部分第七章8.2節)
     優先審査については,2017年に「専利優先審査管理弁法」という法令により詳細に規定されており,一定条件を満たした出願については優先審査が行われている。
     本改正では,同一の出願人が同日に同様な発明創造を行い,当該発明について実用新案と特許の両方を同日に出願する場合(特実併願を行う場合),該特許出願に対して 優先審査を行わないことを明確に規定した。すなわち,特実併願の場合,当該特許出願に対して優先審査が行われない旨が明確に規定された。これは,実用新案が無審査で 早期に登録になり権利行使が可能になるため,特許出願については審査を優先させる必要がなく,審査のリソースを他の出願に回して,リソースを出願に対してより公平的に 使用すべきであることが理由であると考えられる。
    実務に対する影響
     特実併願に対して優先審査が行われないので,実際の出願戦略においては,優先審査のメリットと特実併願のメリットを比較しながら,より有利な施策を選択することが望ましいと考えられる。
  3. 遅延審査の新設(第五部分第七章8.3節)
     本改正では,遅延審査制度が新しく導入された。特許出願においては,出願人より審査請求と同時に遅延審査請求が提出されると,審査請求の発効日に遅延審査が発効される。一方, 意匠出願においては,意匠出願と同時に出願人から遅延審査請求を提出しなければならないと規定された。また,遅延審査の期限は,出願人の請求により1年,2年又は3年にすることが できると明確に規定された。遅延期間が満了した後,当該出願は順番で審査されることになる。一方,実用新案は,早期登録されるのが一般的であるため,遅延審査によるサブマリン 特許のリスクが高いとして,今回の法改正では対象外である。
    実務に対する影響
     中国では審査期間の短縮にともなって,出願人が,分割の機会を確保するために遅く審査することを希望する場合もある。そのため,わざと形式的な拒絶理由を残したり, 応答期間の延長・回復をしたりすることがあった。
     本改正により,出願人が多様な審査方式を選べることになり,製品のライフサイクル及び企業の多様化したニーズに応じた,権利化戦略を行うことができるようになった。 特に,特定の領域の出願は,審査を遅らせることにより,請求項の保護範囲及びレイアウトの調整時間が得られ,出願費用と担当者の工数も減らすことができると考える。
     また,意匠については,登録と同時に行われる公開を,審査を遅延させることによって遅らせることができるようになる。そのため,出願日を確保した上で公開させない 日本の秘密意匠制度のように,公開時期を調整することもできるようになると考える。
     なお,遅延審査をした後に遅延期間を延長または短縮することができるか否かは本改正においては明確にされておらず,今後の実務的な運用が注目される。

中国,特許出願集中審査管理弁法(試行)の実施

 2019年9月3日,国家知識産権局は,コア特許の育成を支援し,審査品質と審査効率を向上させることを目的として,「特許出願集中審査管理弁法(試行)」を実施することにした。
  1. 特許出願集中審査管理弁法(試行)の実施
     集中審査とは,特許出願ポートフォリオの技術全体の理解を強化し,拒絶理由通知書の有効性を向上させ,審査品質と審査効率を向上させるため,出願人または 省の知的財産管理部門が提出した請求により,同じコア技術にわたる特許出願ポートフォリオを巡って,集中的に審査を行う特許審査方式である。本弁法の第5条に より,特許出願集中審査は,審査業務管理部と国家知識産権局の審査部署が共同で組織して展開する。
     特許出願集中審査対象となる案件は以下4つの条件を満たす必要がある(本弁法第3条)。
    • 申請対象となるすべての特許出願は,実質審査段階に入り,且つ実質審査の発効日から1年を超えないこと。また,実用新案と同日併願した特許出願は除外となる。
    • 国家重点競争産業に該当し,または国家利益と公共利益にとって非常に重大な意義があること。
    • 集中審査申請できる特許出願の数が50件以上となる,且つ実質審査請求の発効日から1年を超えないこと。
    • 優先審査などの他の審査政策を受けたことがない。
       特許出願集中審査の請求時に,請求人は国家知識産権局に下記内容を記述した審査請求書類を提出しなければならない(本弁法第4条)。
    • 集中審査を請求するための具体的な理由
    • 特許出願リスト
    • それぞれの特許出願と特許出願ポートフォリオの対応関係の説明
    • すべての特許出願人の署名または印鑑,連絡先,連絡者の明記
       また,特許集中審査の実施が認められる場合,出願人は,以下の集中審査の実施を積極的に協力しなければならない(本弁法第8条)。
    • 審査部門の要求に応じた,関連技術情報の提供
    • 審査部門が提出した技術説明会,会議,調査,ロービングレビューへの積極的な協力
    • 集中審査における問題,経験,効果及び価値などについての積極的なフィードバック
    • 他の必要な協力
    実務に対する影響
     「特許出願集中審査管理弁法(試行)」は,審査を加速させる方式の一つであると考えられる。他の審査加速方式は,優先審査,地方知識産権保護中心による 快速予審などもある。なお,以下の地方知識産権保護中心は,快速予審制度を設立させている(中国(浦東)知識産権保護中心,中国(北京)知識産権保護中心, 中国(広東)知識産権保護中心,中国(四川)知識産権保護中心など)。
     本弁法の適用技術領域は,明確に規定されていないが,例えば,5G通信,AI,電動自動車などの領域が対象となると思われる。50件以上の案件が集まりにくい 場合もあるが,同一出願人という制限がないので,グループ会社の案件を纏めて申請することも可能であると考えられ,今後,全体的な運用状況が注目される。
    異なる加速審査方式の審査期間の差異
    • 集中審査:規定されていない
    • 優先審査:
    • 特許出願は45日以内第一次審査意見通知書を提出し,且つ一年以内に審査完結
    • 実用新案及び意匠は2ヶ月以内に審査完結
    • 特許複審は7ヶ月以内完結
    • 特許及び実用新案の無効案件は5ヶ月以内完結,意匠の無効案件は4ヶ月以内完結
    • (浦東)予審:特許は最速3ヶ月以内,実用新案は最速1ヵ月以内,意匠は最速1週間以内完結。

(参考ウェブサイト)
日本技術貿易株式会社 ホームページ
https://www.ngb.co.jp/ip_articles/detail/1703.html

国家知识产权局关于印发《专利申请集中审查管理办法(试行)》的通知
http://www.sipo.gov.cn/gztz/1141943.htm

《专利申请集中审查管理办法(试行)》解读
http://www.sipo.gov.cn/zcfg/zcjd/1143280.htm

2019年《专利审查指南》修改解读
http://www.sipo.gov.cn/zcfg/zcjd/1143361.htm

从《专利申请集中审查管理办法(试行)》简析我国专利加快审制度
http://www.iprdaily.cn/news_22897.html

(参照日:2019年11月20日)

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