専門委員会成果物

PTABによるクレームの用語の解釈が最も広い合理的解釈(BRI)基準を満たさないと判断し,その解釈に基づく最終決定を無効として差し戻した事例

CAFC判決 2018年12月20日
Vivint, Inc. v. Alarm.com Inc.

[経緯]

 Vivint, Inc.(V社)は,加熱,換気,冷却システムを遠隔で監視する装置に関するシステムと方法について,特許6,147,601(’601特許)等を有していた。Alarm.com Inc.(A社) が’601特許を対象として請願した当事者系レビュー(IPR)において,特許審判部(PTAB)は一部のクレームを無効とする最終決定を下した。
 V社はこの最終決定を不服として,CAFCに控訴した。一方,A社は有効とされたクレームも無効であると主張してCAFCに交差上訴した。       

[CAFCの判断]

 ’601特許発明の主題となるシステムは,サーバを通じて装置と通信できることが特徴であり,監視対象の装置に異常が発生した際(異常時)に,ユーザに対してサーバより(電子メッセージ等) 通知が実行される。該システムには,異常時にサーバが通知すべき“通知先”を指示するメッセージプロファイルが備わっている。メッセージプロファイルには通知先のユーザが定義されており, 監視対象の装置の通信デバイス識別コード(communication device identification codes)が関連付けられている。
 先行文献は,機械を監視し,特定の現象が生じた際にユーザに通知する方法を開示する。通知先のユーザと通知の条件に関するユーザプロファイルデータベースと,生じた現象に関する イベントデータベースが備わっており,バッチ処理により検索・比較され,条件を満たすユーザが選択されて通知される。
 V社は,「メッセージプロファイル」に対するPTABの解釈が誤りで,先行文献がメッセージプロファイルの構成を開示するという結論が合理的でないと主張した。この主張を受けて,CAFCは, PTABの判断を精査した上で,クレーム解釈に誤りがないとして,V社の主張を退けた。
 一方,IPRでは’601特許の「通信デバイス識別コード」の用語について,A社が,先行文献のユーザプロファイルデータベースにおける電話番号やEメールアドレスの情報が該当すると 主張したが,PTABは同意せず,移動識別番号(MIN)を指すものと解釈した。
 A社は,このクレーム解釈が誤りと主張した。これを受けて,CAFCは,PTABのクレーム解釈が外部証拠を参照したものでないことから,最も広い合理的解釈(BRI)基準で再検討(de novo review)を行った。
 PTABの解釈では,「通信デバイス識別コード」を「通信機器を特有の方法で識別できるもの」と認定し,電話番号等の情報は該当しないと結論付けられていたが,CAFCは, ’601特許において,ある機器に対するMINの位置付けについて,携帯電話に対する電話番号と同様であるとの説明があることから,上述したPTABの結論が’601特許の教示を無視したものと判示した。
 従って,PTABがした「通信デバイス識別コード」のクレーム解釈を誤りとし,それに基づく最終決定を無効として差し戻した。

(廣本 敦之)

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