専門委員会成果物

IPRにおいて審理開始しないと決定した無効理由を審判部は再検討できるとした事例

CAFC判決 2019年1月9日
AC Technologies S.A. v. Amazon.com, Inc., et al.

[経緯]

 AC Technologies S.A.(AC社)が保有する特許7,904,680(’680特許)を対象に,Amazon.com, Inc.他(包括して,AM社)が米国特許商標庁に当事者系レビュー(IPR)を請願した。AM社はIPRの 請願書において,一つの先行技術文献に基づき,(1)クレームにある用語の狭い解釈により全クレームが自明であり,(2)同用語の広い解釈により一部クレームに新規性がないとともに(3)残りの クレームが自明である旨を,無効理由として記載した。特許審判部(PTAB)は,いずれも広い解釈で,無効理由(1)及び(2)につきIPRの審理開始を決定し,一方,無効理由(3)につき審理開始をしない, と決定した。その理由としてPTABは,無効理由(1)が全クレームの自明性に合理的蓋然性を示すから,無効理由(3)を審理開始するまでもない旨の説明をした。
 ところが,最終決定書においてPTABは,狭い解釈を採用して,無効理由(1)について全クレームを非自明と認定し,広い解釈を採用して無効理由(2)により上記一部クレームの新規性を否定した。 無効理由(1)に係る当該認定は,無効理由(3)を審理開始しないことの理由とした上記説明と相違する。これを受けて,AM社は無効理由(3)の再検討をPTABに求めた。PTABはこれに応じ,無効理由 (3)に基づき,残りのクレームも無効とし,結果,全クレームを無効とする最終決定を下した。
 これを受けて,AC社は,PTABの最終決定を不服とし,CAFCに控訴した。なお,控訴審においてAC社の主張は主に,PTABが審理開始しないと決定した無効理由(3)を再検討して,残りのクレームを 無効にしたことにつき,(A)PTABが法権限を超えたこと,及び(B)PTABがデュー・プロセスを欠いたことであった。         

[CAFCの判断]

 CAFCは,以下の理由に基づき,AC社の主張(A),(B)を退けた。
 主張(A)につき,CAFCは,AC社の控訴後に出されたSAS最高裁判決(SAS Inst.Inc. v. Iancu, 138 S. Ct. 1348, 1355 (2018))を引用し,審理開始を決定した場合にPTABは,請願書において 争われたクレームの全てにつき結論を最終決定書に記載しなければならないし,請願書に記載された無効理由の全てを検討しなければならない,と説示した上で,無効理由(3)は請願書に記載されて いたので,PTABが法権限を超えたとするAC社の主張は認められないとした。
 主張(B)につき,PTABは無効理由(3)の再検討を決めた後で,AC社に証拠開示手続を取ること,及び当該無効理由に対し追加説明と証拠を提出することを認めたが,他方,AC社は,聴取される 機会を求めなかったものであり,そうすると,デュー・プロセスを欠く事実はなかった,とCAFCは判断した。
 以上から,CAFCは,AC社の他の主張も退けたうえで,PTABの最終決定を維持した。

(山口 薫)

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