専門委員会成果物

自明性の判断において先行文献の組み合わせの動機付けを不要と判断した事例

CAFC判決 2019年1月10日
Realtime Data, LLC, et al. v. Iancu, Director USPTO

[経緯]

 Realtime Data LLC(R社)は,複数のデータブロックを有する入力データを辞書符号化により圧縮及び解凍する方法に関する特許6,597,812(’812特許)を保有していた。Hewlett Packard Enterprise Co.他(包括して,H社)は’812特許を対象に当事者系レビュー(IPR)を請願し,O’Brien特許とNelsonが著者のテキストを先行文献として,先行文献に基づき’812特許は自明と主張した。 H社は請願書に於いて,O’Brien特許は’812特許のクレーム1の全ての構成を開示しているとした。続いて,同請願書に於いて,クレーム1における辞書アルゴリズムに関する文言がO’Brien特許では 文字列圧縮と記載されていたことにつき,文字列圧縮は辞書アルゴリズムであることを当業者に教示している先行文献Nelsonを用いた。
 その後の審理手続きにおいて,R社は,O’Brien特許が開示する文字列圧縮は辞書アルゴリズムであることを認めた。
 PTABは,O’Brien特許は圧縮アルゴリズムの適用を広範囲で提案していると判断し,当業者にはO’Brien特許とNelsonの内容を組み合わせる動機が存在するとして,O’Brien特許は全ての構成を 開示していることを理由にクレーム1,他を自明と判断し,特許無効とする最終決定を下した。
 R社は最終決定を不服としてCAFCに控訴した。なお,控訴審に於いてR社は以下①,②の主張をした。
 ① PTABは,O’Brien特許とNelsonを組み合わせる動機付けがあるとした結論に誤りがある。
 ② PTABは,’812特許とO’Brien特許の用語の解釈に誤りがある。        

[CAFCの判断]

 CAFCは,以下①,②の判断を行い,PTABの最終決定を支持した。
 ①PTABはO’Brien特許とNelsonを組み合わせる際の動機付けについて判断する必要はない。H社はIPRの請願に於いて,O’Brien特許はクレーム1のすべての構成を開示していると主張しており, PTABも同様の判断をした。そして,H社はNelsonを,O’Brien特許の文字列圧縮が辞書符号化の一例であると当業者が理解することを証明するために用いたのみであり,R社は,O’Brien特許が 辞書符号化を開示していることを認めた。
 ②PTABが為した’812特許とO’Brien特許の用語の解釈に誤りはない。

(山名 健司)

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