専門委員会成果物

特許期間調整の減算となる出願人の遅延をUSPTOが不適切に認定したと判断した事例

CAFC判決 2019年1月23日
Supernus Pharmaceuticals, Inc., et al. v. Iancu, Director USPTO

[経緯]

 Supernus Pharmaceuticals, Inc.(S社)は,浸透圧薬物送達システムの米国特許を2006年4月27日に出願し,この米国出願を基礎とした国際出願に基づき,2011年10月13日に欧州へ出願した。 この米国出願の出願審査において,米国特許商標庁(USPTO)が発した2010年8月20日の最終拒絶通知を受けて,S社は2011年2月22日に継続審査請求(RCE)と情報開示陳述書(IDS)をUSPTOに提出した。
 その後,2012年8月21日には欧州特許庁から異議申立の通知を受け,同年11月29日に,異議申立書と,異議申立で引用された文献と,欧州特許庁からの通知と,S社の欧州代理人からの書簡とを開示する 内容でIDS(追加IDS)をUSPTOに提出した。
 米国出願は2014年2月4日に登録査定となり,同年6月10日に特許期間調整(PTA)が1,260日と計算され,特許登録となった。PTAの算出についてUSPTOは,RCE提出から追加IDS提出までの646日を 出願人の遅延と評価し,USPTOの遅延から646日を削減していた。
 これを受けて,S社は,646日のPTA削減を不適切であることを理由に,USPTOにPTAの再検討を要請した。これを受けたUSPTOの再検討に於いて,査定から登録までの126日がPTAに加算されたものの, USPTOは,RCE提出後のIDSの提出が審査官に申請の再検討を要請したものであるから,USPTOの申請処理能力の妨げになることを理由に,646日のPTA削減は適切と結論した。
 この結論を受けたS社は,USPTOの結論を不服とし,行政処分の取消を求め,地裁に提訴し,略式判決を求める申立てを行った。地裁はこの申立を受理し,審理を行った。S社は,少なくともRCE 提出から欧州特許庁からの異議申立の通知までの546日は,出願人の遅延ではないと主張したが,地裁は,出願人の遅延として,USPTOのPTAに誤りはなかったとして,S社の訴えを退けた。
 S社は地裁の判決を不服として,CAFCに控訴した。      

[CAFCの判断]

 CAFCは,646日のPTA削減は特許法154条に反していると判断し,地裁がUSPTOに有利な略式判決を下すのに誤りがあったと結論して,地裁の判決を破棄し,地裁に差し戻した。
 特許法154条には,出願人が出願の審査を結論づけるための合理的な努力をしなかった期間に等しい期間だけ短縮されるとあり,欧州特許庁の異議申立の通知が存在していない546日間に, S社が米国出願の審査を進めるためにできた行動はなかったことから,CAFCは,USPTOが出願人の遅延とみなした546日は,特許法154条の立法意図に明らかに違反しており,このような状況で 適用されるUSPTOの特許法154条の解釈は,PTA削減の法制限を超えるとして,USPTOの行為は法定権限を超えていると判示した。

(小杉 聡史)

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