専門委員会成果物

先行引例に内在的に教示されている事を証明するためには,教示された操作から生じる当然の結果が,問われている機能の実行をもたらすことを示さなければならないと判断された事例

CAFC判決 2019年3月8日
PersonalWeb Technologies, LLC v. Apple, Inc.

[経緯]

 Apple Inc.(A社)は,PersonalWeb Technologies, LLC.(P社)が保有するデータへのアクセス制御技術に関する特許7,802,310(’310特許)に対して,当事者系レビューを請願した。PTABは,特許文献5,649,196(Woodhill)と特許文献7,359,881(Stefik)の組み合わせに基づき,一部のクレームを無効とする決定を下した。 これを不服として,P社はCAFCに控訴した。2017年12月にCAFCは,2つの特許文献の組み合わせに対する動機付けの検証が不十分であるとして,PTABの決定を破棄した。
 ’310特許は,データファイルの内容に基づいたファイル識別子を付与し,そのファイル識別子をネットワーク上における複数の値と比較しアクセス認否を判断している。 この複数の値と比較する点に関して,PTABは2018年2月に,当初のStefikに依拠した判断からWoodhillの記載に置き換えて,以下の様に判断した。すなわち,Woodhillには 「旧バージョンのバイナリオブジェクト識別レコードを含むリモートバックアップファイルサーバーにアップデートリクエストを送信する」と記載があり,Woodhillのリモートバックアップファイルサーバーは,バイナリオブジェクト識別レコードを使って複数のローカルファイルを参照する事ができるはずである。Woodhillの技術は,データファイルの内容に基づいた識別子(バイナリオブジェクト識別子)を複数の値(Woodhillに記載はないが必ず存在するであろうバイナリオブジェクト識別子のデータベース)と 比較している。したがってPTABは,’310特許のクレーム要件をWoodhillが内在的に教示しているため,特許は無効であるとする決定を下した。これを不服として,P社はCAFCに控訴した。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,以下の様に判断し,PTABの決定を棄却した。
 Woodhillには,データファイルを修復するために,データファイルの現バージョンと旧バージョンの同一性情報をユーザーから得ると記載されている。 そのため,データファイルの現バージョンと旧バージョンを保存するためにPTABやA社が提案するようなデータベースを必ずしも使う必要がない。また,バイナリオブジェクト識別レコードのストリームタイプフィールドとオフセットフィールドを用いてファイル内にバイナリオブジェクトが保存されると記載されていることは,Woodhill のデータ修復プロセスにおいて,PTABやA社が提案するようなデータベースを使用する必要がない事を示唆している。
 Woodhillのシステムが,明細書に記載のないバイナリオブジェクト識別子のデータベースを利用して複数の値と比較する可能性はあるが,内在的特性を証明するためには単なる可能性だけでは不十分であり,教示された操作から生じる当然の結果が,問われている機能の実行をもたらすことを示さなければならない,とCAFCは判示した。

(濱口 礼雅)

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