専門委員会成果物

CAFCが先行文献の組合せにより特定のクレーム限定が開示されていないと判断されていても,その後の同一先行文献の組合せによる他の自明性の主張を排除しないと判示した事例

CAFC判決 2019年3月29日
TEK Global, S.R.L., et al. v. Sealant Systems International, Inc., et al.

[経緯]

 TEK Global, S.R.L.(T社)は緊急タイヤ修理キットに関する特許7,789,110を保有している。Sealant Systems International, Inc.(S社)は,パンクしたタイヤを修理するための緊急キットを 販売している。T社は,S社が該特許を侵害するとして特許侵害訴訟を地裁に提訴した。S社は該特許のクレームが2つの先行文献の組合せにより自明であり無効と主張し,地裁はS社の主張を認めた。 T社はこの判決を不服として,CAFCに控訴した。
 控訴審(以下,先の控訴審という)においてCAFCは,S社が示した2つの先行文献の組合せによる自明性の主張では特定のクレーム限定を教示しておらず,地裁はクレーム解釈を誤っていると判断し, 地裁による特許無効の結論を棄却したが,S社には,CAFCのクレーム解釈に照らして特許無効を主張する機会を与えるため,地裁に差し戻した。地裁の審理においてS社は再び,同じ2つの先行文献を 組合せて別観点による特許の自明性を主張し,特許無効の略式判決を求めたが,地裁は,S社が示した2つの先行文献による自明性をCAFCが既に棄却したことを理由として,S社の申立を棄却し, 該特許は有効であって,S社は該特許を侵害していると結論し,S社に,T社への損害賠償を命じた。これを受けてS社は,損害賠償について新たな審議を求め,損害賠償,特許有効性, および非侵害についての法律問題としての判決(JMOL)を求めた。しかし,地裁は,S社の申立を認めずに,T社がした永久差止命令の申立を認める判決を下した。S社はこの判決を不服として,CAFCに控訴した。          

[CAFCの判断]

 CAFCは,特許有効性について,先の控訴審では,S社が一つだけ展開した自明性の主張について検討されており,地裁が,先の控訴審において2つの先行文献に基づく全ての自明性の主張が排除 されたと解釈することは誤りであると判断し,特許有効性に関する地裁の判決を破棄し,特許有効性に関する新たな審議を求めるS社の申請を拒否した地裁の判決を棄却した。
 なお,訴訟経済のため,CAFCは,該特許の特許有効性に関する新たな審議において該特許が無効でないことが判明した場合,地裁はクレーム解釈を誤っておらず,逸失利益補償に必要な 要素を裏付ける実質的な証拠の認定も誤っていないと判断し,S社が求める非侵害と損害賠償のJMOLを地裁が拒否した判決を棄却しないとし,また,永久差止命令に係る地裁の判決には 棄却可能な誤りがないと判断して,地裁の判決を支持するとした。      

(小杉 聡史)

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