専門委員会成果物

「努力(diligence)」の基準には「合理的な継続的努力」が要求され,発明者が,発明を開発しながら改良に取り組み,代替案を評価しても努力は否定されないと判断した事例

CAFC判決 2019年4月11日
ATI Technologies ULC v. ANDREI IANCU

[経緯]

 LG Electronics, Inc.(L社)は,ATI Technologies ULC(A社)が保有する3次元画像を2次元スクリーンに表示するための技術である「統合型シェーダー」に係る特許7,742,053,特許6,897,871,及び, 特許7,327,369(包括して,該特許)を対象に,当事者系レビュー(Inter Partes Review)をUSPTOに請願した。
 A社は,L社が該特許を無効とする主張において引用した主引例の有効出願日より前に該特許発明が完成していたものとして,37 CFR 1.131の規定に基づく宣言書を提出し,発明の着想, 発明の実施化,努力についての証拠を提示した。A社の発明者であるLefebvre氏(L氏)の60ページの宣言書には,L氏と他の発明者,及び,A社の従業員による「R400プロジェクト」と 指定された開発活動についての記述があった。また,宣言書には,メタデータ,文書ログ,フォルダ履歴を含むおよそ1,300頁の文書記録が添付されおり,この文書記録には,いつ,誰によって 作業が行われたのかが示されていた。
 特許審判部(PTAB)は,発明の着想については主引例の日付よりも前に行われていたことに同意したが,現実の発明の実施化,及び,建設的な発明の実施化のための努力について,A社が 立証できていないと認定し,主引例に基づき該特許を無効と決定した。PTABは,この決定にあたり,(1)L氏が,発明の着想日よりも後にクレームに記載されていない任意的な特徴を含むように 「統合型シェーダー」の機能を搭載した画像処理システムR400の再設計を行ったこと,(2)A社が提示したフォルダ履歴等の1,300頁の文章記録は,それ自体は説明的でなく,「説明されていない失効 (unexplained lapses)」が起こらなかったか否かを決定するための合理的な方法をA社が提示しなかったこと,の2つの理由より,A社が「努力」の証明に失敗していると判断した。これを不服として A社はCAFCに控訴した。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,PTABが「努力」についての法律の適用を誤ったと判断し,該特許を無効とするPTABの決定を棄却した。
 CAFCは,既に確立されている「努力」の基準によれば,「継続的な合理的努力(continuous reasonable diligence)」ではなく,「合理的な継続的努力(reasonable continuous diligence)」が 「努力」の要件として求められることを示し,発明者が,発明を開発しながら改良に取り組み,代替案を評価しても「努力」は否定されないことを示した。具体的には,PTABの審理において,R400の 再設計を行った活動が製品化に必要だったとのL氏の証言について,該活動に遅れや空白の期間があったことをPTABが特定できておらず,A社がR400の開発を棚上げしたことを示す証拠がない,とCAFCが判断した。
 以上から,CAFCは,PTABが誤った基準を適用したと結論し,正しい法律基準の下では,A社が提示した証拠が,A社が「合理的な継続的努力」を行っていたことを明らかにしていると認定した。  

(吉川 尚志)

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