専門委員会成果物

一部継続出願のクレームの範囲について,親出願の明細書の内容を参酌して解釈した事例

CAFC判決 2019年4月17日
E.I. du Pont de Nemours & Company v. Unifrax I LLC

[経緯]

 E.I. du Pont de Nemours & Company(D社)は,Unifrax LLC(U社)が販売する防災製品について,D社保有の耐火性を有する複合積層体に関する特許8,607,926(’926特許)を侵害するとして, 特許侵害訴訟を地裁に提訴した。
 地裁は,’926特許のクレームにある構成要素「無機耐火層が100重量%の小板を含む」との内容を,小板中の残留分散剤を含んでもよいとの解釈を行った上で,非侵害かつ’926特許は無効であるとの U社の主張を否定する判決を下した。
 U社は,この地裁の判決を不服として,CAFCに控訴した。    

[CAFCの判断]

 U社は,該構成要素「無機耐火層が100重量%の小板を含む」との内容について,無機耐火層にいかなる有機添加剤の含有を許容しないと主張した。この主張を受け,CAFCは,「無機耐火層が100重量%の 小板を含む」との内容について,後述する解釈を行った。
 ’926特許のクレームは,「無機耐火層が,100重量%の小板を含み,15-50gsmの乾燥面積重量であり,10重量%以下の残留水分を含む」との記載がされていることから,CAFCは,「100重量%の小板」と 「10重量%以下の残留水分」とを両立する解釈として,「担体材料100重量%に対して小板が100重量%である」との解釈を行い,無機耐火層中に担体材料以外の化合物を含んでもよいという解釈を行った。
 また,CAFCは,’926特許の明細書3段21-25行の「耐火層が残留分散剤を含んでもよい」との記載から,無機耐火層中に小板以外の化合物を含んでもよいという解釈を行った。
 更に,CAFCは,一部継続出願にあたる’926特許の親出願:特許8,292,027(’027特許)の明細書2段32-36行の「本発明の一実施形態において,無機小板層は,100%の小板を含む。即ち,樹脂,接着剤, 布,紙等の担体材料は,存在しない。しかしながら,小板分散液の不完全な乾燥から生じる残留分散剤は,存在してもよい」との記載から,無機耐火層中に担体材料以外の化合物を含んでもよいという解釈を行った。
 CAFCは,一部継続出願(’926特許)のクレームの解釈にあたって親出願(’027特許)の明細書の内容を参酌したことについて,「主題の共通性」を有することを根拠とした。両特許が「主題の共通性」を 有する根拠として,特許が親出願と一部継続出願とであるというファミリ関係にあったこと,両特許がポリマーフィルム層と小板を含む無機耐火層とからなる複合積層体に関するもので,複合積層体に耐火性を 持たせることを目的としていること,両特許の明細書で100重量%の小板を含む耐火層の実施形態を開示していると共に,残留分散剤の存在を可能にするとの開示をしていることを挙げた。
 以上のように,CAFCは,無機耐火層中に担体材料以外の化合物を含んでもよいという解釈を行った上で,地裁と同様,非侵害かつ’926特許は無効であるとのU社の主張を否定した。    

(入江 弘康)

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