専門委員会成果物

臨床試験における米国食品医薬品局の懸念は第三者による発明に対する懐疑に該当すると判断された事例

CAFC判決 2019年4月26日
Neptune Generics, LLC, et al. v. Eli Lilly & Company

[経緯]

 Eli Lilly & Company(E社)の特許7,772,209(’209特許)は,「化学療法剤pemetrexedを投与する前に,その毒性作用を軽減するために,葉酸,およびビタミンB12などのメチルマロン酸低下剤を投与する方法」を規定する。
 Neptune Generics, LLC他2社(N社)は,当事者系レビュー(IPR)を請願し,’209特許が自明であると主張した。審判部は,葉酸による前処理がpemetrexedのような抗葉酸剤の投与に関する毒性を減ずることは先行技術で知られているが,がんの治療においてpemetrexedを投与する前に,葉酸とともにビタミンB12で前処理することは知られていないと判断した。
 さらに,審判部は,E社のpemetrexedの臨床試験の中で,米国食品医薬品局(FDA)が葉酸とビタミンB12の追加に対して懸念を示したことが,この発明に対する第三者の懐疑に該当すると判断した。具体的には,FDAは「担当医は,進行中の試験においてビタミンの追加に賛同しない」,「ビタミンの追加は危険だ」という懸念を示していた。
 N社はこの判断を不服としてCAFCに控訴した。       

[CAFCの判断]

 控訴審においてN社は,臨床試験中にFDAは懸念を示したものの,臨床試験を継続することを認めたのだから,この懸念は発明に対する第三者の懐疑として認定されるべきものではない。 そして,懐疑は,クレームの主題が想定された作用を示すことが不可能(“technically infeasible”,“unworkable”,“impossible”)であるかどうかを前提としなければならないと主張した。
 CAFCは,第三者が心配したり驚いたりしたという証言は懐疑のあることを立証するのに十分であると判示した判決(Circuit Check Inc. v. QXQ Inc, 795 F.3d 1331, 1337(Fed. Cir. 2015)) を引用し,FDAの懸念はこの範疇にあるとした。そして,第三者が発明を不可能と判断したという証拠はより重視されてよいものではあるが,そのことで,PTABがFDAの懸念を懐疑の証拠としたことが誤りとはならないとして,PTABの懐疑を非自明性の根拠とする判断を支持した。  

(孫 天益)

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