専門委員会成果物

損益値の取引画面上への単なる表示は特許法101条に基づく特許適格性を有しないと判断した事例

CAFC判決 2019年4月30日
Trading Technologies International, Inc. v. IBG LLC, et al.

[経緯]

 IBG LLCらは,Trading Technologies International, Inc.(T社)が保有するユーザーインターフェース上に市場情報を表示する方法に関する特許7,783,556(’556特許)に対して,ビジネス方法特許(CBM)レビューを請願した。’556特許のクレームは,市場情報をグラフィカルユーザーインターフェース上に表示する方法に関連し,各種取引価格,および損益値を数値軸に沿って表示することを特定するものである。
 PTABは,’556特許のクレームは,特許法101条における特許適格性を有さないとする決定を下した。T社はこの決定を不服として,CAFCに控訴した。       

[CAFCの判断]

 CAFCは,T社の控訴に対して,Alice最高裁判決(Alice Corp. Pty. Ltd. v. CLS Bank Int’l, 573 U.S. 208, 216(2014))の判断基準における(A)第1ステップ及び(B)第2ステップを 以下の通り判断し,’556特許のクレームは,特許法101条における特許適格性を有しないと決定を下した。

 (A)第1ステップの判断
 T社は,’556特許のクレームは,有用性,可視化および効率を改良する特定のグラフィカルユーザーインターフェースを提供するものである為,抽象的アイデアではないと主張した。
 一方,CAFCは,以下の通り判断した。’556特許のクレームは,損益値を数値軸に沿って表示することなどにより,より迅速に扱える情報をトレーダーに提供することを特徴としている。 そして,数値軸に沿って損益値などの情報を表示することによっては,コンピューターの機能が改良されることや,コンピューターがより効率的に動作するなど,技術的な課題は解決される ことがない。従って,CAFCは,’556特許のクレームは,法的例外である抽象的アイデアであると判示した。

 (B)第2ステップの判断
 ’556特許のクレームでは,従来技術である取引画面に,数値軸に沿った損益値の表示が単に加えられている。更に,損益値の計算方法は多く存在し,当業者は多くの異なる損益値を計算できると’ 556特許に記載されている。すなわち,損益値を表示する取引画面が従来存在しなかったとしても,特許適格性を有さない概念を使ったクレームは,法的例外を超える特許適格性の有する発明を提供しない。 従って,CAFCは,’556特許のクレームについて,発明概念を提供する追加要素の組み合わせは見出せないと判示した。

(中易 信晃)

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