専門委員会成果物

原告の不十分な侵害調査を理由として,被告代理人に掛かった裁判費用の原告による支払いを認めた事例

CAFC判決 2019年5月1日
ThermoLife International, LLC, et al. v. Hi-Tech Pharmaceuticals, Inc., et al.

[経緯]

 ThermoLife International, LLCら(T社)は,Hi-Tech Pharmaceuticals, Inc.ら(H社)が,T社が保有する血管機能や体力を向上させるアミノ酸であるアルギニン及びリジンの製造方法及び組成物に係る4つの特許を侵害しているとして,特許侵害訴訟を地裁に提訴した。
 地裁は,上記4つの特許に対して,全ての特許クレームは無効である判決をした。さらに,勝訴したH社による特許法285条に基づく申し立てに対し,地裁は,本件訴訟に係る代理人費用をT社が支払うよう裁定した。地裁は裁定の理由として,クレームの全てが無効であることではなく,T社が訴訟の手続きの前に十分な事前調査を怠ったことを判示した。
 T社は,代理人費用の支払いに対する裁定を争うべく,CAFCに控訴した。      

[CAFCの判断]

 地裁の裁定は,特許の有効性やT社がどのように有効性を争ったかではなく,訴訟の手続き前にT社が十分な事前調査を怠ったことに基づくものである。従って,CAFCは,本件が例外的なケースであることを認め,地裁における決定は裁量権の濫用に当たらないとして,地裁の判断を支持した。
 具体的には,T社が特許クレームを十分な注意をもって精査していれば,侵害の事実が無いことを訴訟提起前に容易に知り得た筈であるという地裁の認定に対し,以下(A)〜(D)の 事実を総合的に考慮し,CAFCは,T社は十分な反駁を行えていないと認め,地裁の判断を支持した。

 (A)デポジションや訴訟における証言において,T社側の専門家が,特許発明の効果を奏するためには特定量の
    L−アルギニンが含まれていることが必要であることが公知であったことを証言している。
 (B)被疑侵害品は全て公に入手可能であった。
 (C)T社は,単純な試験によって被疑侵害品中のL−アルギニンの含有量を測定することが出来た。
 (D)多くの被疑侵害品のラベルに,L−アルギニンが含まれていないこと,あるいは,発明の効果を奏するのに必要
    な量が含まれていないことが表示されていた。

(木島 正人)

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