専門委員会成果物

明細書の記載がクレームの用語を明確に定義するものではない場合に,クレームの用語が平易で通常の意味に解釈された事例

CAFC判決 2019年5月13日
Bradium Technologies LLC v. Iancu

[経緯]

 Microsoft Corporation(M社)は,Bradium Technologies LLC(B社)が所有する2件の特許(特許7,908,343,特許8,924,506)について当事者系レビュー(IPR)を請願した。2件の特許はともに,イメージデータの伝達と表示を最適化する方法に関するもので,潜在的に限られた処理能力,リソース,及び通信帯域幅であるクライアントのシステム上で,イメージデータを最適に表現するシステムと方法を提供する。
 IPRにおいて,B社は,クレームの「制限帯域幅通信回線(a limited bandwidth communications channel)」は,無線または狭帯域幅の通信回線に限定されるとする解釈を提案した。これに対し, 審判部はB社の提案を否定し,「制限帯域幅通信回線」を「帯域幅が制限されている通信回線」と,平易で通常の意味に解釈した。「制限帯域幅」は「狭帯域幅」と同義であり,無線回線に限定されるものではなく,帯域幅を制限する特定の因子を含意するものでもない。いずれの特許にもそのような定義はないと指摘した。その上で,先行技術はインターネットに接続されているコンピュータ上で 実行でき,クライアントがアクセスしコンピュータ上に地形データを視覚化する技術を使うことが開示されており,クレームの発明は先行技術から自明であると判示した。
 B社はこの判断を不服として,CAFCに控訴した。    

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁のクレーム解釈に誤りはないとした。
 まず,M社がIPRを請願したのは,USPTOが改正したクレーム解釈の基準を適用する2018年11月13日よりも前であるから,IPRにおいて,クレームは明細書記載と当業者の理解に基づき 「合理的な範囲で最も広く解釈(BRI)」される。
 B社は地裁のクレーム解釈が広すぎるとして,クレームの回線はその技術的制約により,本質的,恒久的に帯域幅内に限定されていなければならないと主張した。根拠として,2つの特許に共通して「低帯域幅のデータ回線の使用からくる直接的な技術的制約,または比較的高帯域幅の回線において高い同時ユーザー負荷が課されているという間接的な制約がありうる」という記載があり,制限された帯域幅の状態となる2つの因子が記載されていると指摘した。
 CAFCは,B社が指摘する上記の記載は低帯域幅と高帯域幅を区別しているが,「限定された」帯域幅通信回線が高帯域幅の回線ではないとは述べていないとして,B社の主張に同意しなかった。 そして,むしろその記載は,限定された帯域幅が,直接の技術的制約,または高ユーザー負荷のような間接的制約のいずれかに起因するということを明確にしている点で,地裁の解釈をサポートすると述べ,地裁の解釈に誤りはないと結論づけた。

(服部 武直)

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