専門委員会成果物

訴訟提起の適格性を示すには,問題となっている特許に基づく事業の実施または推測ではない実施計画による損害があることを示さなければならないと判断された事例

CAFC判決 2019年5月13日
AVX Corporation v. Presidio Components, Inc.

[経緯]

 Presidio Components, Inc.(P社)は,セラミックコンデンサを製造および販売しており,単層セラミックコンデンサに関する特許6,661,639(’639特許)を所有している。AVX Corporation (A社)は,コンデンサを含むさまざまな電子部品を製造および販売しており,’639特許に関し当事者系レビュー(IPR)を請願した。
 A社は,’639特許の21項のクレームすべてが自明性に基づいて特許を受けることができないと主張した。PTABは,クレーム13〜16および18は特許性がないと判断したが,残りの16項のクレームについては特許性を維持した。P社はPTABの決定に異議を申し立てなかったが,A社は維持されたクレームに関するPTABの決定に不服を申し立てた。これに対しP社は,A社がアメリカ合衆国憲法第3条に基づき 審判部の決定に不服を申し立てる適格性を欠いていると主張して反論した。
 裁判所に訴訟提起する適格性をもつには,(1)事実上の損害,(2)損害と訴えた行為との因果関係,(3)有利な判決により損害が補償される見込み,を示さなければならない。これに対しA社は2つの主張をした。第1の主張は,将来P社がA社に対し維持されたクレームを主張した場合,特許法315条(e)の禁反言規定により,維持されたクレームへの自明性に基づく異議を審判部に却下されることにより損害を被る。第2の主張は,’639特許のクレームを維持するPTABの決定が,P社と競争するA社の能力を低下させるためA社に損害を与える。      

[CAFCの判断]

 CAFCは,A社の申し立てを棄却した。
 第1の主張について,控訴人が可能な侵害訴訟を提起するいかなる手続きも行っていない場合,禁反言規定は事実上の損害を構成しない。仮に将来,維持されたクレームに関する争いがP社とA社との間で生じ,侵害手続きあるいは裁定手続きが地裁に起こされたとしても,A社は特許法315条(e)により審判部が拒絶した自明性による異議を起こすことが禁じられるか試みることはできる。
 また,第2の主張について,A社は維持されたクレームに確実に係るコンデンサの事業を現在行っている,又は推測でない(確かな)計画があること,を示していない。そのため,地裁の判決の結果でA社が損害を被ることを確認できない,と判示した。

(河内 祥光)

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