専門委員会成果物

効果を発現することをクレームに規定する場合には,その効果が明細書中に適切に開示されていなければならないと判断された事例

CAFC判決 2019年5月15日
Nuvo Pharmaceuticals, et al. v. Dr. Reddy’s Laboratories Inc., et al..

[経緯]

 Nuvo Pharmaceuticalsら(N社)は,特許6,926,907および特許8,557,285の2件の特許に基づく薬剤の製造・販売を行っている。Dr. Reddy’s Laboratories Inc.ら(D社)が後発薬の承認申請(ANDA)を米国食品医薬品局(FDA)に申請したため,N社は,地裁に特許侵害訴訟を提訴した。
 上記2件の特許クレームは,いずれも,コーティングされていないプロトンポンプ阻害剤薬(PPI)と,コーティングされている非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)とが,それぞれの効果を示す量で含まれることを規定している。患者へ投与された際,コーティングされていないPPIはpHによらず放出され,胃中のpHを少なくとも3.5へ上昇させる。NSAIDは,pHが3.5未満では放出されないようにコーティングされている。しかし,明細書には薬剤の製法に関する記載はあったが,PPIとNSAIDの量がどれだけあれば治療の効能があるかを示す実験データがなかった。 D社は特許の無効を主張する中で,特許が先行技術から自明でないならば,当業者は非コーティングPPIがクレームのように作用すると予想していないし,明細書には効果のある非コーティング PPIを発明者が所有していることを示す実験データや分析的推論もないので,特許法112条に基づく明細書の記載不備を主張した。
 地裁は,記載要件に関しては,特許にクレームされた非コーティングPPIが即時放出されること,コーティングされたPPIには潜在的な課題があること,が記載されているので,明細書に不備はないと判示した。
 D社は記載要件の判断に対してCAFCに控訴した。(N社も,D社の後発薬は非侵害であるとした地裁の略式判決を不服としてクロスアピールした。)  

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁の判決を棄却し,特許クレームは無効であると判示した。
 クレームの製薬剤が実際にある結果を示すことをクレームに規定する際には,その結果が明細書中に適切に開示されていなければならない。本件の場合,発明者は非コーティングPPIの治療効果をクレームしたが,明細書にはその効果に関する適切な記載がなく,発明者がクレームに規定したものを所持し,実際に発明していたことを,当業者に実証できていない。当業者は非コーティングPPIが胃中のpHを上昇させると予想していないのだから,明細書を読んだ当業者が,非コーティングPPIを含む組成の開示をもとにしても,そのものが有効なものであるか わからない。したがって,対象特許クレームは,特許法112条に準ずる適切な記載を欠いており無効であると判示した。

(成田 洵)

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