専門委員会成果物

連邦機関がAIAレビューを申請することができる「人(person)」ではないと判断された事例

最高裁判決 2019年6月10日
Return Mail, Inc. v. United States Postal Service

[経緯]

 Return Mail, Inc.はUnited States Postal Service(アメリカ郵政公社)を相手取り,連邦請求裁判所に特許侵害訴訟を提起した。郵政公社は,訴訟の係属中に, Covered-Business-Method Review(CBM)を特許審判部に申請し,訴訟対象特許は無効と判決された。その後のCAFC控訴審においては,郵政公社のような連邦機関がCBMレビューを申請する ことができる「人(Person)」となりうるのかが争点となり,CAFCは,連邦機関が「人」であると結論付けた。         

[最高裁の判断]

 最高裁は,郵政公社の以下3つの主張を否定し,連邦機関はAIAレビューを申請することができる「人」ではないと判断した。なお,ここでいうAIAレビューとは,CBMに加え, Inter Partes Review(IPR),Post-Grant Review(PGR)を含む。
 郵政公社は,特許法の中で使われている「人」という言葉が連邦機関を含んでいることに依拠し,AIAレビューに関しても同様に考えるべきであると主張した。しかし,実際にはこれらの「人」という言葉は,連邦機関を含む場合と,連邦機関を除外する場合とがあった。そのため,最高裁は,単に「人」という言葉が連邦機関を含む場合があった, というだけでは郵政公社側の主張を認める十分な根拠とはならないと判断した。
 また,郵政公社は,連邦機関が特許システムを長年利用している点を主張した。連邦機関は査定系再審査の手続きを古くから利用しており,審査基準(MPEP)には「人」が 連邦機関を含むことが記載されている。そのため,新たにAIAレビュー制度を制定にあたっても,この前例に従い,連邦機関が特許無効化に関する請求ができることは当然に 想定されていたはずだ,と主張した。しかし,最高裁は,AIAレビュー制度の制定に際し議会がMPEPを念頭に置いていたことを示唆する証拠は何もないとして,郵政公社の主張を否定した。
 さらに,郵政公社は,他の通常の被告との公平性に関して主張した。連邦機関も他の被告と同様に侵害者となり民事責任を負う立場にある。通常の被告は防衛手段としてAIAレビューを 請求できるのに対して,連邦機関のみがAIAレビューを請求できないのは不公平である,と主張した。しかし,特許権者は通常の被告に対して「差し止め」「陪審裁判」「懲罰的損害賠償」 などを請求できるが,連邦機関に対してはこれらの請求をできないという差異がある。このことから,最高裁は,連邦機関が防御の観点で他の被告と同様に扱われないとしても合理性が ないとは言えないとし,郵政公社の主張を否定した。

(小松 崇徳)

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