専門委員会成果物

IPR審査開始決定の時点で請願人の実質的当事者(RPI)が特許法315条(b)の時期的制限にかかる場合,そのRPIがIPR提出後に合併した会社であっても,IPRは開始されるべきではないと判示した事例

CAFC判決 2019年6月13日
Power Integrations, Inc. v. Semiconductor Components Industries, LLC

[経緯]

 Semiconductor Components Industries, LLC(S社)は,2016年3月29日にPower Integrations, Inc.(P社)保有の特許6,212,079(’079特許)に対して当事者系レビュー(IPR)を提出した。
 S社は特許審判部(PTAB)が審査開始決定を下す日(2016年9月23日)の4日前に,2009年に’079特許の侵害訴訟を受けていたFairchild Semiconductor Corporation(F社)との合併を完了させた。
 P社は,IPR提出時にF社はS社と当事者関係(in privity)にあったから特許法315条(b)の時期的制限(IPR請願人と当事者関係にある者が,特許侵害を主張する訴状を受け取ってから1年以上経過した後に,当該特許に対するIPRが提出された場合には,IPRは開始されない(may not be instituted))の規定により,審査開始されるべきではないと主張した。
 しかし,PTABは,IPR提出時にはS社とF社の合併は完了していなかったとしてP社の主張を却下し’079特許は無効との最終決定を下した。
 P社は,この決定を不服としてCAFCに控訴した。        

[CAFCの判断]

  CAFCは,F社はS社のRPIであると認定し,さらに,特許法315条(b)の「may not be instituted」の文言に注目し,ここでは「reject the petitioner’s filing」と記載されているわけではないので,IPR提出(filing)時点ではなく審査開始決定(Institution)時点で特許法315条(b)に基づく判断をするべきであるとした。
 また,CAFCは,AIT判決(Application in Internet Time, LLC v. RPX Corporation, 897 F.3d 1336)の中で,国会が特許法315条(b)の制定時に「請願人に独自の狙い(interest)があったとしても, IPRの審査開始決定により,親密な関係にある者が利益を得てしまうことを防ぐように言葉を選ぶ」べきとしたことも本判示をサポートしていると示した。すなわち,IPRの審査開始を決定する際に,IPRの審査開始決定により,RPIの受ける利益の存在を無視してはならないとした。

(渡邊 英行)

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