専門委員会成果物

1つの先行技術文献を基にクレームを自明とする拒絶が可能であることを確認した事例

CAFC判決 2019年6月21日
Game and Technology Co., Ltd. v. Activision Blizzard Inc., et al.

[経緯]

 Game and Technology Co., Ltd.(G社)は,オンライン上のゲームにおけるキャラクターをカスタマイズする方法に関する特許8,253,743(’743特許)を有している。’743特許は,オンライン上の使用者にアバターを提供し,使用者がゲームアイテム機能とアバターとの結合を望む場合に,アバターの対応するレイヤーにゲームアイテム機能を結合し,gamvatar(アバターとゲームの合成語)を生成する キャラクター生成方法である。Activision Blizzard, Inc.(A社)は先行技術としてDialo Ⅱ Manual(ビデオゲームのユーザーマニュアル)に基づき自明であるとして,’743特許に対し当事者系 レビュー(IPR)を請求した。
 PTABは,’743特許はビデオゲームのユーザーマニュアルのみ,もしくはそれと他の文献との組み合わせにより自明であると判断した。これを受け,G社は,クレームを自明とする決定とクレーム解釈に異議を唱えてCAFCに控訴した。   

[CAFCの判断]

 控訴審において,G社は,クレームが先行技術文献に対して新規性を有している場合,自明である根拠として複数の文献が必要であり,1つの先行技術文献だけではクレームが自明であることの根拠とすることはできないと主張した。
 これに対してCAFCは過去の判例であるArendi S.A.R.L. v. Apple Inc., 832 F.3d 1355, 1361とTherasense, Inc. v. Becton, Dickinson & Co., 593 F.3d 1325, 1336-37を引用した上で,1つの先行技術であってもその記載に照らしてクレームの内容へと変更することが自明であるならば,クレームは1つのその先行技術を基に自明であるといえる,とした。また,これらの判例に おいても1つの先行技術を基にクレームを自明と判断しているとした。
 その上で,PTABが判断した通り,Dialo Ⅱ Manualには’743特許の構成であるアバターやgamvatarが開示されているとした。G社は,’743特許クレームのレイヤーの解釈に関し,レイヤーは グラフィック物(アバターが利用できるアイテム)を表示するグラフィック領域を含み,アイテムがアバターに接して表示されることが必要であると主張した。しかしながら,CAFCは,アイテムがアバターとは別のグラフィック領域に表示する形態を開示している’743特許の図5や明細書の記載に基づき,’743特許のレイヤーの解釈は,アイテムがアバターに接して表示される形態に限定 されないと判断した。そして,CAFCは,Dialo Ⅱ Manualはアイテムがアバターとは別のグラフィック領域に表示する形態を開示していると判断し,PTABの判断は間違っておらずG社の主張は説得力がないとして,PTABの判決を維持した。

(高見 亮次)

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