専門委員会成果物

審査経過禁反言は限定要求に対する応答に必ずしも生じないことを一つの判断事由に均等侵害を認めた事例

CAFC判決　2019年6月24日
UCB, Inc., et al. v. Watson Laboratories Inc., et al.

［経緯］

　UCB, Inc.ら（Ｕ社）は，パーキンソン病の治療に用いられる，ロチゴチンを経皮投与する経皮治療システムに係る特許6,884,434（’434特許）を保有している。 Watson Laboratories Inc.及びActavis Laboratories UT, Inc.（Ａ社）がロチゴチンパッチのジェネリック版を医薬品簡略承認申請（ANDA）したことに対し，’434特許を侵害するとして，Ｕ社はＡ社を地裁に提訴した。
　この’434特許のクレーム１には，アクリレートベース又はシリコンベースの高分子接着剤中に，少なくとも５重量％以上の遊離塩基形のロチゴチンが溶解している点が記載されている。Ａ社製品は，’434特許のクレーム１に記載されたアクリレートベース又はシリコンベースではなく，ポリイソブチレンを高分子接着剤に使用していたが，地裁は，接着剤は実質的に同じであるとして，Ａ社製品が’434特許を均等侵害していると判示した。この際，Ａ社は，審査過程における審査官の限定要求に対する応答で，Ｕ社が，アクリレートベース又はシリコンベースの高分子接着剤をクレームの文言に含むグループＩと，それら高分子接着剤に限定していないグループⅡとのうち，グループＩを選択したことを理由に，アクリレートベース又はシリコンベース以外の接着剤をＵ社は放棄しており，均等論の適用によりそれを取り戻すことは許されないと主張したが，地裁はこれを認めなかった。
　Ａ社はCAFCに控訴した。　　　　　　　

［CAFCの判断］

　CAFCは，Ａ社製品が’434特許のクレームを均等侵害しているとする地裁の判断を支持した。
　CAFCは，Ａ社の上記主張に対し，限定要求に対する応答に，必ずしも審査経過禁反言は生じないこと，限定要求に対する応答に審査経過禁反言が生じるか否かは当業者の観点から判断されなければならず，その応答に特許性に関する内容が含まれる場合に考慮されることを述べた。そして，本件では，審査官による限定要求はポリイソブチレンに関連しておらず，審査官は，ポリイソブチレンベースの高分子接着剤の特許性について何らＵ社に伝えていなかった。さらに，Ｕ社がポリイソブチレンを除外するような限定を補正により加えておらず，また，そのように解釈されるような限定要求への応答をしなかったと，CAFCは判断した。
　また，地裁が行った，シリケートとアクリレートと比較したポリイソブチレンの特性に関する事実認定，及び，当業者がシリコンベースの接着剤とポリイソブチレンベースの接着剤の置換可能性を理解できるとする事実認定も誤りではないと，CAFCは判断した。

（山田　賢治）

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