専門委員会成果物

記載要件の判断にはクレームに記載される構成の予測可能性や重要性を含む関係する要素を考慮すべきと判断した事例

CAFC判決 2019年7月5日
In re:Global IP Holdings LLC

[経緯]

 Global IP Holdings LLC(G社)は特許8,690,233(’233特許)を保有している。’233特許は,自動車の荷室を規定している。
 G社は,再発行出願のクレームにおいて,規定された「熱可塑性(thermoplastic)の外皮及び熱可塑性の芯材」を「プラスチック(plastic)の外皮及び芯材」に変更した。しかし審査官は, 明細書には外皮が熱可塑性材料から形成されることのみ示されており,熱硬化性も含むプラスチック全般をクレームすることは新規事項の追加であり,特許法112条第1パラグラフに違反している として拒絶した。これに対しG社は,プラスチックを使用することは発明の決定的な構成要素ではなく,熱可塑性以外のプラスチックを使用することは予測できるものであるから,熱可塑性 プラスチック(種)の開示はプラスチック(属)のクレーム規定をサポートすると主張した。
 PTABは,他の代替材料へ置き換えた結果の予測可能性,あるいは発明全体における熱可塑性材料の実質的な重要性に関わらず,明細書全体として,発明が特に熱可塑性の外皮及び芯材からなる もののみであると判断し,審査官の拒絶を支持した。
 G社はCAFCに控訴した。       

[CAFCの判断]

 CAFCは,’233特許が特許法112条第1パラグラフの下で明細書の記載要件に従うかどうかの分析において,PTABが法的に誤っていると判示した。
 記載要件が十分であるかどうかは,明細書が当業者に,発明者が出願時点でクレームの対象を所有することを正当に伝えているかということであり,当業者の観点から明細書への調査を必要とする。
 記載要件を満足するのに要する詳細の水準は,クレームの性質と範囲により,また,関連する技術の複雑さと予測可能性により変わるものであり,一般的なプラスチックへ置き換えることの予測可能性は 明細書への調査と関係する。また,予測可能性に加えて,発明へのクレームされていない限定の重要性が,明細書への調査に関係する。CAFCは過去の判示において,ある特定分野で存在している知識, 先行技術の範囲及び内容,その科学又は技術分野の成熟度,及び係争中の解釈の予測可能性など,種を開示する明細書が一般的なクレームをサポートするかに関係する様々な因子を確認している。
 従って,CAFCはPTABの決定を破棄し,PTABが記載要件を判断するにあたり,予測可能性や重要性を含む関係する要素を考慮し,適切な法的基準のもとで記載要件を満たしているか判断するよう,差し戻した。

(大久保 亮成)

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