専門委員会成果物

適切な裁判地は侵害主張側による立証が必要であるとの判決を無視し推測だけで主張した行為は,当該判決前であったため制裁の対象にしないと判断された事例

CAFC判決 2019年7月5日
Westech Aerosol Corporation v. 3M Company, et al.

[経緯]

 Westech Aerosol Corporation(W社)は,2017年1月にエアロゾル接着剤用キャニスターシステムに関する特許7,705,056の侵害を理由に,3M Company他3社(3M社)をワシントン西部地裁に 提訴した。3M社は,2017年5月に下されたTC Heartland最高裁判決(TC Heartland LLC v. Kraft Food Grp. Brands LLC, 137 S.Ct. 1514 (2017))を引用して,「W社が特定する地に所有, リース,使用,保持する不動産物件はないため,ワシントン西部地裁は適切な裁判地ではない」として本事件の取下げを申し立てた。地裁は,3M社の主張根拠に同意したものの,W社の訴状修正を 認めて,3M社の申立を却下した。
 W社が2017年9月に修正訴状を提出した後,3M社は不適切な裁判地を理由に改めて本事件の取下げを申し立てた。その数日後,In re Cray判決(In re Cray, 871 F.3d 1355 (Fed. Cir. 2017))が 下されたため,地裁は,In re Cray判決に依拠して,ワシントン西部地区に3M社には定常的に確立されたビジネスの地はないと判断し,本事件の取下げを認めた。
 これを不服として,W社はCAFCに控訴した。一方,3M社も根拠のない控訴を理由としてW社に対して弁護士費用とその2倍の費用となる制裁を請求した。         

[CAFCの判断]

 CAFCは,W社が連邦民事訴訟規則1400(b)の文言を繰り返し主張するだけで,3M社が定常的に確立されたビジネスの地を有する事実を示しておらず,また,その事実があると推測するだけでは 立証責任を果たした事にはならないと判断して,地裁判断を支持すると判示した。
 また,3M社の制裁請求に関しては,W社の控訴時に,In re ZTE判決(In re ZTE Inc., 890 F.3d 1008(Fed. Cir. 2018))が下されておらず,適切な裁判地の立証責任が誰にあるのか明確では なかった。そのため根拠のない控訴とは言えないが,控訴の係属中に,In re Cray判決及びIn re ZTE判決に気付いていたにも関わらず,これらの判決を無視した主張を行った行為は,根拠のない 控訴として制裁の対象となりうる。しかし,適切な裁判地の立証責任が誰にあるのか明確ではなかった状況において,控訴を求めるW社を責める事はできないとして,CAFCは3M社の制裁請求を否認した。

(濱口 礼雅)

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