専門委員会成果物

IPRにおける決定を不服とする控訴人が憲法第3条の当事者適格を確立するためには,対象特許による現実的な損害があることを提示しなければならないとした事例

CAFC判決 2019年7月10日
General Electric Company v. United Technologies Corporation

[経緯]

 General Electric Company(G社)は,United Technologies Corporation(U社)が保有する航空機向けギア付きファンエンジン技術に関する特許8,511,605(’605特許)に対して,’ 605特許の一部のクレームを対象とする当事者系レビュー(IPR)を請願した。PTABはクレーム7〜9について非自明であるとして,特許性を維持すると判断した。
 G社はCAFCに控訴した。これに対し,U社は,G社が現実的損害を示していないので,控訴に必要な当事者適格を有しないとして,G社の控訴却下の申立を行った。          

[CAFCの判断]

 CAFCは,G社が控訴に必要な当事者適格を有しないと判断し,控訴を却下した。
 G社は,控訴できる憲法第3条の適格性を授与されるに十分な現実的損害を被っていることを示す責任がある。G社は,競争上の損害及び経済的損失として,’605特許により競合他社と 比較して航空機エンジンの設計範囲を制限せざるを得なくなったなどと主張した。また,ボーイング社(B社)がかつてG社のエンジンに興味を示していたという証拠も提出した。
 しかしCAFCは以下の様に説明し,G社が’605特許による現実的な損害を証明できていないと判断した。
 競争上の損害については,G社はB社との取引において,特許のクレームに該当するギア付きファンエンジンを提供しておらず,その理由は示されていない。また,提供できなかった ことでG社がビジネス機会を失ったとの証拠もない。G社の主張は,推測の損害であり,’605特許に係わる現実の損害ではない。
 さらに経済的損失の点で,G社はエンジン設計において’605特許との関係を調査し開発するのに費用が掛かったと主張するが,その詳細について会計報告を示していないので証拠がない。
 また,G社が’605特許のクレームに係わるエンジンを設計中との証拠もなく,その計画が決定されたものであることも示されていない。

(中島 洋介)

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