専門委員会成果物

口頭審理時にPTABがクレーム解釈方針を通知していれば,IPR当事者の行政手続法上の権利は侵害されないとした事例

CAFC判決 2019年7月10日
TQ Delta, LLC v. DISH Network LLC

[経緯]

 DISH Network LLC(D社)は,TQ Delta, LLC(T社)が保有するマルチキャリア伝送システムに関する特許8,611,404(’404特許)に対して,’404特許の一部のクレーム(クレーム6等)を 対象とする当事者系レビュー(IPR)を請願した。
 PTABは,引用された先行文献5,956,323等に基づき,審理対象とされた全てのクレームは自明であるとして,特許性を有しないとする決定を下した。
 T社はPTABの決定を不服としてCAFCに控訴した。その際にT社は,PTABが開始決定時のクレーム解釈方針を最終決定において変更したために,その解釈への反論の機会が得られず行政手続法上 の権利を侵害されたと主張した。具体的には,’404特許の「再初期化の必要なしに」という用語について,PTABが最終決定で「初期化のいずれかのステップが回避されれば満足する」と限定的に解釈したと主張した。           

[CAFCの判断]

 CAFCは,PTABは行政手続法上のT社の権利を侵害していないと判断した。
 IPRの手続きは行政手続法の要請に従う公式行政判決であるので,PTABは「当事者に理論の変更を合理的に通知し,新しい理論の下で議論を提示する機会を与えずに,理論を途中で 変更することはできない」(SAS Inst., Inc. v. ComplementSoft, LLC., 825 F.3d 1341, 1351 (Fed. Cir. 2016))。
 しかしCAFCは,PTABは開始決定においてD社の主張を要約したに過ぎず,「再初期化」という用語について何ら解釈していないため,最終決定でのクレーム解釈は開始決定後の「方針の変更」に は当たらないと判断した。
 さらに,最終決定前の口頭審理において,PTABはT社の解釈に同意しないことを説明しており,T社は既にPTABのクレーム解釈を認識していた。そして口頭審理後に,T社がPTABのクレーム 解釈に反論する機会が存在したと認定した。
 CAFCは,PTABのクレーム解釈は適切であり,従って先行文献からクレームが自明であるとしたPTABの判断を支持した。

(小澤 ゆい)

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