専門委員会成果物

明細書中に定義されていないクレーム用語の解釈が不適切であるとして差し戻した事例

CAFC判決 2019年7月10日
Cisco Systems, Inc. v. TQ Delta, LLC

[経緯]

 Cisco Systems, Inc.(C社)は,TQ Delta, LLC(T社)が有する特許8,611,404(’404特許)の当事者系レビューを求めた。’404特許は,スリープモードにおけるトランシーバーの 電力管理とスリープモードからの復帰の方法に関するものである。
 特許審判部は,’404特許の明細書中に定義されていない「synchronization signal」というクレームの用語は「送信機と受信機のクロック同期を許可する信号」を意味する,と解釈した。 そして特許審判部は,この解釈を用いて’404特許のクレームは先行技術に対し自明と認定した。そのため,T社は控訴した。             

[CAFCの判断]

 CAFCは,同じ’404特許を対象とする別の判決(前述の(6)TQ Delta, LLC v. DISH Network LLC)においてクレーム6,11,16及び20は自明と判断しており,本件でもこの決定を引用し, 残りのクレーム1〜5,7〜10,12〜15,17〜19について検討した。
 CAFCは,’404特許のクレームと明細書に基づけば,「synchronization signal」というクレームの用語は「送信機と受信機間でのフレーム同期を許可する信号」をも意味し,特定の タイプの同期に限定されていないとした。
 ’404特許の明細書の好適態様において,「timing reference signal」が,送信機と受信機のフレーム同期とクロック同期の両方を許可する信号であると説明されており,「synchronization」は クロック同期についての態様に限定されていない。「timing reference signal」は周波数同期とフレーム同期の両方に係わり,フレーム同期が存在するには周波数同期が必要となる。
 CAFCは,特許審判部のクレーム解釈に反し,「synchronization signal」は,単に送信機と受信機の間のタイミング関係の確立と維持に使われるものでありフレーム同期も含まれると判示した。 そして,特許審判部のクレーム解釈が誤りであるとしてこれを破棄し,適切なクレーム解釈で検討するよう差し戻した。

(大沢 真一)

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