専門委員会成果物

電子取引の方法ステップの順序の並び替えは抽象的アイデアであり,発明概念を構成するには十分でないと判断した事例

CAFC判決 2019年7月30日
Solutran, Inc. v. Elavon, Inc., et al.

[経緯]

 Solutran, Inc.(S社)は,紙小切手の電子的処理方法に関する特許8,311,945(’945特許)を保有する。Elavon, Inc.の親会社であるU.S. Bancorp(U社)らは, ’945特許のクレームは特許適格性を有する主題を引用していないとして,特許法101条に基づき特許無効を地裁に申し立てた。
 ’945特許のクレーム1は,取引金額を含むデータファイルを電子的に受領するステップと,その後に,利用者口座に入金を行うステップと,更にその後に, 紙小切手をスキャンし,デジタルイメージを生成するステップと,デジタルイメージとデータファイルのデータとを比較するステップと,を含む。
 地裁は,特許審判部(PTAB)によるCBMレビューの審決を参照し,’945特許のクレーム1は抽象的アイデアではないとするPTABの審決を支持した。その理由は 以下である。クレーム1の各要素は,ステップの順序における新しい組合せを記述している点。そして,上記記述は先行技術には開示は無く,非自明であると USPTO審査官およびPTAB審判官パネルによって認められていた点。
 U社は,地裁による決定を不服としてCAFCに控訴した。     

[CAFCの判断]

 CAFCは,’945特許のクレームは特許法101条における特許適格性を有する主題ではないと判断し,地裁の判決を差し戻した。
 CAFCは,クレームされた主題が特許適格性を有するか否かを判断する為に,Alice最高裁判決(Alice Corp. Pty. Ltd. v. CLS Bank Int’l, 573 U.S. 208 (2014)) の中で説明された2ステップによる判断基準を適用した。

(A)第1ステップの判断
 CAFCは,’945特許のクレームは,小切手を電子的に処理している間に,できるだけ早く利用者口座に入金を行うという抽象的アイデアであると判断した。
 CAFCは,特定の順序や道筋によって実行される取引に関するクレームは,過去の判決において抽象的アイデアであると判示している。
 S社は,’945特許は,(1)小切手がスキャンされ,検証されるよりも前に利用者口座に入金されることによる資金利用性の改良,(2)スキャン等のアウトソーシングにより利用者負担の軽減という利点があり,クレームが全体として抽象的アイデアではないと主張した。しかしクレームに引用された唯一の進歩は,紙小切手のスキャン よりも前に利用者口座へ入金することである。したがって,クレームは電子小切手取引の基本的なステップを引用しているにすぎず,技術的な改善があるわけではないとして,抽象的アイデアであると,CAFCは結論付けた。

(B)第2ステップの判断
 CAFCは,ステップの順序を並び替えることは,クレーム中の抽象的アイデアを表しており発明概念を構成するには不十分であるとした。また,クレームに引用された抽象的アイデア自体が新規でかつ非自明であったとしても,単に抽象的アイデアを引用するだけでは特許非適格を回避するには不十分であると判示した。

(中易 信晃)

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