専門委員会成果物

先行文献の回避と無関係に補正されたクレームに基づいた均等論の主張は,包袋禁反言を適用しないと判断された事例

CAFC判決 2019年8月6日
X社 v. International Trade Commission

[経緯]

 X社の保有する特許7,666,655(’655特許)は,芳香族L-アミノ酸の生成を増加させるために遺伝子組み換えがされた大腸菌に関するものである。CJ CheilJedang Corp.(C社)は, L-トリプトファンを生成する複数種の大腸菌株を米国に輸入しており,当該行為が’655特許を侵害するとして,X社は米国国際貿易委員会(ITC)に提訴した。
 ITCは,C社が輸入していた第一世代の菌株は’655特許を侵害しないものの,その後の二世代の菌株は請求項9を侵害すると結論付けた。その理由としてITCは,後の二世代の菌株の遺伝子によりコードされたYddGタンパク質が,
請求項9で規定されたアミノ酸配列と均等物であると判断した。このITCの判断に対して,X社は,第一世代の菌株は’655 特許を侵害しないとするクレーム解釈に不服として,CAFCに控訴した。一方,後の第二世代の菌株に関して,包袋禁反言により,X社の均等論の主張は認められないとし,C社はCAFCに控訴した。(クロスアピールの状況)。       

[CAFCの判断]

 CAFCは,X社の控訴に対し,第一世代の菌株は’655特許を侵害しないとしたITCのクレーム解釈を支持した。
 続いて,CAFCはC社の控訴について検討した。
 CAFCは,’655特許の審査経過を参酌した。先行文献は,YfiKタンパク質を開示しており,当該YfiKタンパク質は
請求項1に規定する条件(B)に含まれると判断された。 そこで,X社は,請求項1に条件(A)を残し,新たに請求項9を追加した。請求項9は,出願時の請求項1の条件(B)に記載されていたアミノ酸配列リストSEQ ID NO:2を 含むものであり,請求項9それ自体は当該補正により出願時の請求項1から変更されたものではないと,CAFCは判断した。
 このような理由からCAFCは,請求項9の均等物に基づき,二世代の菌株に関するC社の侵害行為に対して,“tangential relation” exception(「関係の希薄性」の例外) を適用し,均等侵害とするITCの判断を肯定した。
 「関係の希薄性」の例外を適用するに当たり,侵害を主張する均等物と,減縮補正した理由と,が明らかに無関係であることを特許権者が証明することが必要であるとするFesto判決(Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Ka-bushiki Co., 344 F.3d 1359 (Fed. Cir. 2003))をCAFCは引用した。
 本事件において,X社が審査中に行った請求項9におけるアミノ酸配列に関する補正の理由は,先行技術文献に記載されたYfiKタンパク質を除くことであり,YddG タンパク質のDNA配列に関して補正されていないとCAFCは判断した。したがって,CAFCは「関係の希薄性」の例外を適用し,クレームの補正によって,X社はDNA配列の 異なるYddGタンパク質の均等物を放棄しておらず,C社が二世代の菌株に関し均等侵害すると判示した。

(下尾 祐未)

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