専門委員会成果物

明細書中で明確な定義が無い“mechanical control assembly”という文言を含むクレームがMPFクレームに該当すると判断された事例

CAFC判決 2019年8月12日
MTD Products Inc. v. Andrei Iancu

[経緯]

 Toro Company(T社)は,MTD Products Inc.(M社)が保有する特許8,011,458(’458特許)に対し,先行技術から自明であるとして当事者系レビューを請願した。’458特許は,回転半径がゼロである「Zero Turn Radius(ZTR)」自動車のステアリング及びドライビングシステムに係る特許である。 これに対しM社は,’458特許のクレームにおけるmechanical control assemblyという文言は,means-plus-function(MPF)を意味する用語に相当すると主張した。そして,T社が 挙げた先行技術は,’458特許のクレームに対応する構造を開示していないと主張した。この主張を裏付けるため,上記文言は一般用語として使われない一回限りの用語であり,特定の構成を当業者に想起させる文言はないとする専門家の証言を提出した。
 一方,特許審判部(PTAB)は,上記文言は,’458特許の明細書中において,ZTR control assemblyと言及されている事を指摘した。すなわち,他の構成要素とどのように結合し動作するか,ZTR control assemblyを構成する特定の構造についての記載が明細書にあり,当業者は,上記文言が意味する構造を理解できると指摘した。したがって,’458特許のクレームはMPFクレームに該当しないため,’458特許は先行技術より自明であると判断した。
 M社はPTABの判断を不服としてCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,’458特許クレームはMPFクレームに該当するとして,さらなる審議を行うよう求め差戻した。その理由として以下の通り判示した。
 クレームの文言が特定の構成を示すと理解するには,明細書中に1つの実施形態が開示されているだけでは足りず,出願人はクレームの文言を再定義する明らかな 意図を示さなければならない(Helmsderfer v. Bobrick Washroom Equip., Inc., 527 F.3d 1379 (Fed. Cir. 2008))。
 ’458特許の明細書中において,mechanical control assemblyの好ましい実施形態がZTR control assemblyであると定義する出願人の意図は示されていない。
 mechanical control assemblyに対応する構成が’458特許の明細書中に存在する事で,mechanical control assemblyが112条第6パラグラフの適用を回避する明確な構成であるとするPTABの判断は,誤りである。

(木島 正人)

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