専門委員会成果物

無線による情報伝達は抽象的アイデアであり,それ自体では発明概念にならないと判断された事例

CAFC判決 2019年8月21日
The Chamberlain Group, Inc. v. Techtronic Industries Co. Ltd., et al.

[経緯]

 The Chamberlain Group, Inc.(C社)は,ガレージドアのような可動式の障壁の状態に関する情報を無線により伝達する装置と方法の特許である特許 7,224,275(’275特許)を保有していた。Techtronic Industries Co. Ltd.ら(T社)は,’275特許が特許法101条に基づく特許適格性を有しないとしてJMOL(法律問題としての判決)を地裁に申請した。
 地裁は,’275特許のクレームは従来技術に対する特定の改善に向けられており,抽象的アイデアではないと判断し,T社の申立てを却下した。
 T社はこの判決を不服として,CAFCに控訴した。     

[CAFCの判断]

 CAFCは,Alice最高裁判決(Alice Corp. Pty. Ltd. v. CLS Bank Int’l, 573U.S. 208, 216(2014))の2ステップによる判断基準を適用し,’275特許のクレームは,特許法101条における特許適格性を有しないと結論づけた。

 (A)第1ステップの判断
 ’275特許のクレーム1は,無線通信によるシステム情報の伝達であり,従来技術との違いは無線伝達の部分のみである。無線によるデータ通信は基本的で従来からある通信形態であることは明細書でも説明されており,それ自体は従来技術に対する技術的な改善ではないため,抽象的アイデアであると判断した。

 (B)第2ステップの判断
 CAFCは,無線による情報伝達のアイデア以上に,発明概念とみなせるクレーム要件があるか,検討した。
 すなわち,C社が従来技術に対し発明概念があると主張した’275特許の唯一のクレームの要素は,無線通信により情報を伝達することであるが,当該特許が出願された時点で,無線通信により情報を伝達することは従来技術である。前述のとおり,無線通信はクレームが向けられている抽象的アイデアであるため,発明概念にはなりえない。そして,C社は,無線通信の行為以外の発明概念を示していない。
 CAFCは,主張されたクレームには抽象的アイデアを特許適格性のあるものにするのに十分な発明概念が存在しないと判断した。

(上原 悠子)

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