専門委員会成果物

PTAB裁決で請願書とは異なる文言が使用されたが,行政手続法違反ではないと判示された事例

CAFC判決 2019年8月21日
Arthrex, Inc. v. Smith & Nephew, Inc., et al.

[経緯]

 Smith & Nephew, Inc.(S社)は,Arthrex, Inc.(A社)が所有する特許8,821,541の請求項に対し,引例の組み合わせにより明らかであるとして,当事者系レビュー(IPR)を請願した。
 特許審査部(PTAB)は,当該請求項を無効と裁決した。その際PTABは,S社の請願とは異なる文言を使って,なぜ当業者が先行技術を組み合わせるように動機付けられたのかを説明した。
 A社はPTABの当該裁決に異議を申し立て控訴した。    

[CAFCの判断]

 A社の手続き上の権利をPTABは侵害しておらず,また実質的な証拠により引例の組み合わせの動機付けができたというPTABによる結論をCAFCは支持した。
 IPRの手続きは,行政手続法(APA)の手続き要件に従う正式な行政裁定である。政府機関は,応答者に「変更の合理的な通知」と「新しい理論の下で主張を提示する機会」を与えることなく,途中で理論を変更することはできない。また,申立人によって進められていない特許無効性の新たな理論を形成することもできない。
 引例に対して,S社が請願書で使っている“well-known”,“accepted”,“simple”と,PTABが使った“preferred”とは異なるため,PTABがS社の請願には見られない引例を組み合わせる新たな理由を作り上げ,手続き上の権利を侵害したとA社は主張した。
 これに対しCAFCは以下の通り判断した。PTABが引例の組み合わせの動機付けを行う際,請願書とは異なる文言を使用したが,PTABは新たな問題や無効性の理論を導入していなかった。つまり,PTABは,請願書と同じ開示内容を引用し,両当事者は裁判を通じてその開示内容の有意性について議論してきた。結果として,請願書は,特許権者への通知と,PTABが依拠した引例に対処する機会を与えており,APA違反は認められない。
 従って,最終審決においてPTABが請願書における正確な文言を単に使用しなかったという事実は,行政手続法及び判例法に矛盾して理論を変更したとは解さないと,CAFCは判断した。

(高畑 匡宏)

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.