専門委員会成果物

「程度」を表す用語を数学的な精度で定義する必要はなく,クレーム,図,明細書,審査経過など内在的な証拠によって明確に定義されうるとされた事例

CAFC判決 2019年8月27日
Guangdong Alison Hi-Tech Co. v. International Trade Commission

[経緯]

 Aspen Aerogels, Inc.(A社)は特許7,078,359(’359特許)の特許権者であり,Guangdong Alison Hi-Tech Co.(G社)が輸入していた複合エアロゲル断熱材が’ 359特許を侵害しているとしてITCに提訴した。
 上記特許のクレームは,“lofty fibrous batting sheet(嵩高な繊維状詰め物シート)”という構成要件を含み,このような程度を表す用語は特許法112条に違反し不明瞭であるか否かが争われた。ITCの行政法審判官は,明細書の開示に基づき,“lofty…”は,「内部に空気を含んだ体積物(バルク)で,復元力を有する繊維材」 として定義されているとし,特許は有効であるとしてG社の主張を拒絶した。
 G社はITCの決定を不服とし,CAFCへ控訴を行った。    

[CAFCの判断]

 CAFCは,以下の理由により’359特許のクレームは不明瞭でなく,有効であると判示した。
 特許権者は明確性要件を満たすために,発明を数学的な精度で定義する必要はない。程度を表す用語を含むクレームを持つ特許は,発明に関して当業者に客観的な境界を 示さなければならないが,それは,クレーム,図,明細書,審査経過など内在的な証拠によって可能であり,また,外的証拠も寄与しうる。
 クレームの“lofty…”という用語は,程度を表す用語であるものの,明細書には「バルクの特性とある程度の弾力性(完全なバルク回復の有無を問わず)を 示す繊維材料」のように明確に定義されている。その機能的特性や先行技術の「繊維マット」との違いも明細書には示されており,市販の製品例も挙げられている。
 また,審査経過においても,許可の理由の際に,審査官は明細書が“lofty fibrous batting”を「バルクおよびある程度の弾性を示す繊維材料(完全なバルク 回復にかかわらず)」と定義し,これに基づいて先行技術と区別していることを強調している。同様に,PTABも,A社が申し立てたIPRの審理開始の拒絶決定の中で指摘している。
 さらに,技術用語辞典や,両陣営の識者の説明といった外的証拠も,クレームが明確に定義されていることを支持するものである。
 G社は,’359特許の明細書は,G社の製品が侵害になるであろう「ある程度の復元性」と,侵害にはならない「少し(〜ゼロ)の復元性」という程度の表現の間に 客観的境界が記載されていないので,“lofty fibrous batting”の定義は曖昧であり,どの程度の復元性がクレームを満足するのに十分であるか,という明確な開示が明細書には欠けていると主張した。
 これに対しCAFCは,この分野の当業者であれば,数学的な定義を必要とすることなく,材がゼロ若しくは無視できる程度の復元力を有する時を見分けることができると説明した。

(成田 洵)

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