専門委員会成果物

SAS最高裁判決に基づいて差し戻されたIPRを開始しないとするPTABの決定が争われた事例

CAFC判決 2019年8月29日
BioDelivery Sciences International, Inc. v. Aquestive Therapeutics, Inc., et al.

[経緯]

 BioDelivery Sciences International, Inc.(B社)は,Aquestive Therapeutics, Inc.(A社)の特許8,765,167に対し合計17の根拠に基づく3件の当事者系レビュー(IPR)を請願した。
 上記3件のIPRにはそれぞれ複数の根拠が含まれていたが,PTABは,各IPRを1つの根拠のみについて審理を開始し,全てのIPRで特許を維持する決定を行った。
 B社は,PTABの決定を不服としてCAFCに控訴し,当該控訴審においてSAS最高裁判決(SAS Institute, Inc. v. Iancu, 138 S. Ct. 1348(2018))に基づき,上記3件のIPRの決定を差し戻すことを主張した。CAFCはB社の主張を認めた。
 上記差し戻しを受け,PTABは,当事者の主張と以前に採用しなかった根拠とを検討したが,B社が提出した根拠の圧倒的多数がIPRの審理開始の基準を満たしていないとして,3件のIPRの審理を開始しないことを決定した。
 B社はこの決定を不服としてCAFCに控訴した。これに対しA社は却下の申し立てを行った。     

[CAFCの判断]

 CAFCは,B社の控訴を却下した。
 PTABは,IPRを部分的に審理開始することにより誤りを犯した。しかしながらPTABは,差し戻し命令に従って,IPRの審理を開始するか否かを再検討し,IPRの審理を開始 しないという裁量を行使することにより上記誤りを修正した。
 PTABは,全ての根拠について審理を実施することにより,上記誤りを修正することもできる。しかしこの場合,全ての異議申立につき完全な裁判手続きを行うことになる。 このPTABの手続は,そもそもIPRの審理開始基準を満たさないとPTABが判断した根拠にも関連しており,同様に審理を開始しない決定に至る可能性が高い。そのような手続を 行うことは,IPRの手続を行う上での特許庁の効率性を求める長官の法定責任に反することになる。また,特許庁に全ての手続の公正で迅速かつ安価な解決策を確保するよう求めるとする長官の規則に反することになる。
 IPRの審理を開始しない決定の差し戻し命令は,IPRの請願書に提示された情報が異議が申し立てられたクレームの少なくとも1つに請願人が勝訴する合理的な見込みが あることを示すか否かについてPTABが決定することと,IPRの審理を開始するか否かの裁量権をPTABが行使することとを求めるものである。そして,特許法314条(d)により, これらのPTABの決定への不服の申し立ては認められない。

(服部 武直)

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