専門委員会成果物

マスター契約が適切に終了した場合に,関連するサブライセンス契約が自動的に生き残るとは限らないと判断した事例

CAFC判決 2019年10月17日
Fraunhofer-Gesellschaft zur Förderung der angewandten Forschung E.V. v. Sirius XM Radio Inc.

[経緯]

 Fraunhofer-Gesellschaft zur Förderung der angewandten Forschung E.V.(F社)はマルチキャリアモジュ レーションに関する一連の特許を有していた。F社は1998年にWorldSpace International Network Inc. (W社) とこれら一連の特許に関する独占ライセンス権を許諾するマスター契約を結んだ。マスター契約には独占 ライセンス権とともにサブライセンス権も備えられていた。同年,W社はSirius XM Radio Inc.(S社)と, 当該マスター契約に基づく,サブライセンス契約を結んだ。
 その後,W社は財政危機に陥り,2008年に同社は米連邦破産法第11条に基づく再建型の倒産申請を破産裁判所に 行い,続いて,当該倒産申請から同法第7条に基づく清算型の倒産申請に切り替えた。
 同裁判所においてW社は同法365条(d)(1)に従い当該マスター契約を拒否し,この拒否により,同社は マスター契約を違反した状況となった。W社の契約違反によって,F社はマスター契約を終了する権利を与え られたことになったが,F社はマスター契約を明示的には終了しなかった。
 その後,2015年になって,F社はS社に,W社の前記拒否によってマスター契約は終了した旨のレターを送り, 2017年に,F社はマスター契約でカバーされた4件の特許をS社が侵害したとして特許侵害訴訟を地裁に提起した。
 しかし,地裁はマスター契約が終了した場合であってもサブライセンス契約が自動的に生き残る旨を支持し, W社のサブライセンス契約に基づくS社の抗弁を認め,F社の訴えを棄却した。
 F社はこの判決を不服として,CAFCに控訴した。    

[CAFCの判断]

 CAFCは,以下の2点を主な理由として,地裁が下したF社の訴えを棄却するという判断を破棄し,審理を差し戻した。
 第一に,マスター契約が適切に終了したかという問題が判断されるべきであったが,地裁がその問題を判断 しなかったことが理由である。
 第二に,マスター契約が終了していた場合に,S社に許諾したサブライセンスが生き残るのか否かという点が 問題となる。この点,地裁は,マスター契約が終了した場合でも,その終了はW社に将来のライセンスを許諾する ことを禁止するだけで,既に許諾されたサブライセンスには影響しないと判断した。しかし,CAFCは,マスター 契約が終了したとしても関連するサブライセンスが自動的に生き残ることを示す法律は存在しないとし,サブ ライセンスが生き残るかどうかはマスター契約が不明確である以上,両当事者の意図を決定するためには契約時の 状況を示す外部証拠を考慮しなければならないことを理由とした。

(小松 崇徳)

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