専門委員会成果物

実際に模倣した客観的証拠がある場合には,発明との関連性があるものとして非自明性分析に考慮すべきとされた事例

CAFC判決 2019年10月30日
Liqwd, Inc. v. L’Oreal USA, Inc.

[経緯]

 Liqwd, Inc.(LI社)は,マレイン酸またはその塩を用いた髪の脱色方法に関する特許9,498,419を保有している。
L’Oreal USA, Inc.(LO社)は,該特許を対象に特許付与後レビュー(PGR)を申請し,該特許のクレームが3つの先行文献の組合せにより自明であり無効だと主張した。
 特許審判部(PTAB)は,該特許が先行文献の組合せにより自明であると認定し,さらに,非自明性の二次的考慮に関わる客観的証拠として,特に長年の要と他人の模倣を検討した。LI社が提示した証拠に基づく非自明性分析から,まず長年の要については証拠が不十分であると認定した。次に他人の模倣については,LO社がLI社の機密情報にアクセスしなければマレイン酸を使用した製品を開発しなかったことを認定した。しかしこの事実認定にもかかわらず,PTABは,LO社が特定の製品を模倣したことをLI社が示していないため,模倣の証拠は法律問題として無関係であるとして考慮しなかった。そして,該特許は自明であると判断した。
 LI社はこの判決を不服として,CAFCに控訴した。    

[CAFCの判断]

 他人の模倣などの非自明性を示すための客観的証拠の提供者は,その証拠と該特許発明の特徴との間にNexus (発明との関係性)が存在することを示さなければならないが,実際に模倣した客観的証拠がある場合には,この証拠は常に関連性があるものとみなせる。
 CAFCは,該特許の発明者を含むLI社とLO社の打合せや秘密保持契約について言及したLO社のEメールや,その打合せでLI社が当時非公開であった該特許出願のコピーをLO社に提示し,その後にLO社がLI社の技術購入に興味をなくしたことを示したLI社の宣誓書を,客観的な証拠として引用し,LO社がLI社の機密情報にアクセスしてマレイン酸を使用したとするPTABの事実認定については支持した。しかし,この認定を考慮しなかったことは誤りであると,CAFCは判断した。
 CAFCは,PTABの判決は無効として,適切に自明性分析を検討するようPTABに指示して差し戻した。

(杉山 大輔)

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