専門委員会成果物

効果を有するクレーム範囲の化合物を特定することが困難であり,実施可能要件違反及び記載要件違反とされた事例

CAFC判決 2019年10月30日
Idenix Pharmaceuticals LLC, et al. v. Gilead Sciences Inc.

[経緯]

 Idenix Pharmaceuticals LLC(I社)は,保有するC型肝炎ウイルス治療用組成物に関する特許US7,608,597 (’597特許)に基づき,Gilead Sciences Inc.(G社)に特許侵害訴訟を提起した。G社は’597特許に対して,記載要件と実施可能要件による無効を主張し,法律問題としての判決(JMOL)を申し立てた。地裁は記載要件に関する申し立てを却下して実施可能要件違反のみ認定し,’597特許を無効とした。
 I社はCAFCに控訴した。    

[CAFCの判断]

 CAFCは地裁の実施可能要件違反の認定を支持し,さらに地裁の判断を覆して記載要件違反も認めた。
 ’597特許のクレームは,特定の構造(メチル基の位置)と特定の機能(ウイルス治療効果)を持つヌクレオシド化合物を包含する。この特定の構造を有する化合物は数十億個も想定されるため,実施可能か否かは,当業者が特定の構造を持つヌクレオシド化合物のどれが特定の機能(治療効果)を有するかを,過度の実験をせずに理解できるかが重要である。この過度の実験を判断する要素としてCAFCは以下の要件を検討した。(1)必要な実験の量,(2)必要な実験のルーティン性,(3)実施例による開示の有無,(4)特許で示されている指針の量,(5)当該分野の性質と予測可能性,(6)当該分野のレベル,(7)クレーム発明の広さ。
 そしてCAFCは,(5)当該技術分野は予測不可能であり,(2)例え合成がルーティン的であったとしても,(1)当業者は少なくとも数万種類の化合物の合成とスクリーニングをしなければ治療効果を有する化合物を 特定できないと認定した。
 さらにCAFCは,(6)当該分野のレベルは高いものの,明細書には(4)有意義な指針や(3)実施例が開示されておらず,当業者は(7)広いクレーム発明の範囲においてどの化合物が治療効果を有するか予測できないとした。 そしてCAFCは,広範なスクリーニングは過度の実験に当たると結論付け,「発明を実施するために当業者を反復的な試行錯誤プロセスに従事させる」明細書は実施可能要件を満たさないと認定した。
 また,CAFCは,明細書には化合物の例示はあるものの,具体例以外の化合物が治療効果を有するかどうか記載 されておらず,何が効果を発現させるのか,効果を有するものと有さないものを区別する方法が開示されていないとした。そのため,クレームされた発明を当業者に明確に認識させるものでないとして記載要件違反を認定した。

(小澤 ゆい)

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