専門委員会成果物

図書館員の宣誓内容が証拠として認められ,技術雑誌が特許出願日の1年前に公衆に利用可能であったと判断された事例

CAFC判決 2019年11月7日
Telefonaktiebolaget LM Ericsson v. TCL Corporation, et al.

[経緯]

 TCL Corporation他4社(T社)は,Telefonaktiebolaget LM Ericsson(E社)が保有する無線通信方式におけるダイレクト・コンバージョン受信機に関する特許6,029,052(’052特許)に対して,ドイツの技術雑誌に掲載された Jentschel 教授の論文(J論文)と特許文献の組み合わせに基づき自明であるとして,当事者系レビューを請願した。
 E社は,J論文の扱いに関して,以下2点の反論を行った。
  1. J論文が掲載された1996年5月/6月号は,UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の図書館には’052特許の出願日の1年前である1996年7月1日よりも後となる1996年10月に到着したため,J論文は公衆に利用可能ではなかったので先行資料にはならない,と反論した。また,T社が採用したドイツの図書館に勤めていた図書館員によるレターに は,J論文は1996年6月19日には公衆に利用可能だったと記載されていたが,上記図書館員が米国での宣言を拒否したため証拠として不採用になった。しかし,その後,別の図書館員による宣誓書(以下,宣誓書)をT社が提出した行為 は,連邦規則集(C.F.R.)§42.123(b)に基づく,当事者レビューの開始1か月後に新たな情報を出すためには,その情報を早期に提示できなかった理由と新たな証拠の検討が司法の利益になるのかを示さなければならないとの要件を満たしていない,と反論した。
  2. J論文が掲載されたドイツの技術雑誌はドイツの図書館に1963年から所蔵されており,1996年5月/6月号が 図書館に到着してから目録が作られ,1~2日の手続きを得て1996年6月18日には図書館で開架され公衆に利用可能 だった,との宣誓内容だけでは,公衆に利用可能だったかどうか立証されていない,と反論した。

 PTABは,①に対して,過去の記憶を持った証人を探す困難さを根拠に,宣誓書は規則に基づいた証拠となると判断し,②に対して,ドイツの技術雑誌は30年以上もの間,図書館にて公衆に利用可能に所蔵されてきたので,1996年5月/6月号も同じように取り扱われたと判断した。そのうえで,PTABはJ論文を先行文献として扱い,’052特許は自明により特許無効とする決定を下した。
 これを不服として,E社はCAFCに控訴した。    

[CAFCの判断]

CAFCは,PTABの判断を支持した。
 E社は,宣誓書の内容,開架された日付および雑誌を受領し陳列したことを示す図書館の記録に対して, 反論や反証を用意する機会が十分にあったが,証拠を示さなかったので,宣誓書は道理的に証拠として扱われる とするPTABの判断に誤りはない,と判示した。

(濱口 礼雅)

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