専門委員会成果物

類似技術の認定にあたり,先行文献が本願発明に対して合理的な関連性を有するかの判断には,発明時点における当業者の知識に関する証拠を考慮しなければならないとした事例

CAFC判決 2019年11月8日
Airbus S. A. S. v. Firepass Corporation

[経緯]

 Firepass Corporation(F社)は,低酸素空気を常圧下で用いることで防火及び消火する技術に関する特許6,418,752 (’752特許)を保有している。Airbus S.A.S.(A社)は,この’752特許に対して当事者系再審査を請求した。 審査官は,’752特許を特許5,799,652(’652特許)と他の4つの文献(Gustafsson等)との組み合わせに基づき自明であると判断した。’652特許は,運動トレーニングや治療を目的に低酸素空気を閉鎖空間に供給する技術に関する。
 F社は,これを不服とし,PTABに提訴した。PTABは,’652特許は’752特許の類似技術に該当しないと判断し,またGustafsson等については検討を行わないで,審査官による無効の判断を覆した。
 A社はこれを不服とし,CAFCに提訴した。    

[CAFCの判断]

 CAFCは,PTABが類似技術の認定を誤ったことを理由に,PTABの判決を破棄し,再検討するようPTABに差し戻した。
 先行文献は,その内容が発明の類似技術である場合に,自明性を判断するための先行文献としての地位を有する。 CAFCは,先行文献が発明の類似技術か否かは,(1)課題の位置づけに関係なく,その文献が,発明者が発明の主題を 実現しようとした範囲にあるか,(2)文献が上記範囲外ならば,その文献が発明者の特定の課題に合理的に関連性を 有するか,という2つのテストに基づき判断されるとした。
 CAFCは,PTABによる(1)の判断は,’752特許及び’652特許の明細書やクレームの記載を証拠として,それに基づきなされており,’652特許が(1)の範囲外としたPTABの判断は妥当と示した。
 一方で,CAFCは,PTABによる(2)の判断は誤りであったと示した。合理的に関連性のある文献とは,発明者が 課題を解決しようとする場合に,当業者であれば考慮にいれる文献であり,合理的な関連性の調査は,発明の時点に おける当業者の知識及び観点に密接に結びつくものであると,CAFCは示した。そのうえで,Gustafsson等は,低酸素空気を閉鎖空間にて常圧下で使用する事が,本発明の時点における防火及び消火の技術分野においてよく知られたものであったことを示す証拠として,A社によって挙げられたものであり,当業者が,閉鎖空間における防火や消火の課題を解決するために,’652特許のような低酸素空気を閉鎖空間で使用することが記載された文献を合理的に参照するかどうかという疑問にかかわるものであるとして,PTABはそれらの証拠を考慮するべきであるとCAFCは判断した。

(山田 賢治)

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