専門委員会成果物

先行文献との差別化を図るクレーム補正での禁反言により均等論の適用が禁止された事例

CAFC判決 2019年11月22日
Pharma Tech Solutions, Inc. v. LifeScan, Inc., et al.

[経緯]

 Pharma Tech Solutions, Inc.(P社)の米国特許6,153,069(’069特許)および’069特許の 継続出願である6,413,411(’411特許)は,糖尿病患者による自宅での血中グルコースの監視システムに関するものである。LifeScan, Inc.(L社)が実施する自宅での血中グルコース測定システムが,P社の’069特許および’ 411特許の均等侵害に該当するとして,地裁に提訴した。
 P社は’069特許のあらゆる禁反言が’411特許の権利解釈に及ぶことについて同意している。’069特許は, 1回目の拒絶理由通知への応答の際,請求項4(’069特許における後の請求項1)に,(1)少なくとも2つのコットレル電流値を測定すること,(2)複数のコットレル電流値を被検体濃度測定値へ変換すること,(3)複数の被検体濃度測定値を線形的に比較すること,の3点について組み込む補正を行い,公知文献との差別化を図った。
 2回目の拒絶理由通知では,1回目の拒絶理由通知とは異なる公知文献に基づいて新規性および非自明性欠如の拒絶理由が通知された。しかし,本願のように異なる時点における被検体濃度測定値の比較は記載も示唆もしていないため,公知文献とは異なると主張した。
 3回目の拒絶理由通知への応答において,公知文献は前記(1)〜(3)について記載も示唆もしておらず,本願とは明確に異なると主張し,特許査定を得た。さらに,’411特許も続けて特許査定を得た。
 地裁は,上記の補正に基づく禁反言によりP社の均等侵害の主張を認めなかった。P社はCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 Festo判決では,禁反言が生じた場合には均等論の適用を禁止するという推定が働くが,補正の理由と 被疑侵害形態との関係の希薄性(tangential relation)が認められる場合は推定を覆すことができるとした。L社が実施する(a)異なる時点における電流値を測定し,(b)前記電流値を比較し,規定のパーセンテージ内であるか確認し,(c)電流値をグルコース濃度に変換するシステムと,’069特許の補正の理由との間に関係の希薄性の例外が適用され,L社の行為は均等侵害に該当するとP社は主張した。しかし,CAFCは,拒絶理由通知に対する応答の補正は,公知文献との差別化を明確にし,特許性を得るためになされたものであるとする地裁の認定を支持した。したがって,L社の実施形態は,’069特許および’411特許の必須要件である「被検体濃度測定値の比較」を備えないため,「関係の希薄性」の例外(“tangential relation” exception)は適用することができないと判断した。

(下尾 祐未)

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