専門委員会成果物

自明性判断には,実体的な証拠による裏付けが必要と判示した事例

CAFC判決 2019年11月22日
TQ Delta, LLC v. Cisco Systems, Inc., et al.

[経緯]

 TQ Delta, LLC(T社)は,「通信信号のピーク電力と平均電力との比(PAR)を低下させる電子通信システム」に関する特許9,014,243(’243特許)及び特許8,718,158(’158特許)を保有し,両特許権に基づき,Cisco Systems, Inc.(C社)を含む複数の通信会社に対して特許侵害訴訟を提起した。これに対してC社は,先行技術文献であるShivelyとStoplerとの組み合わせに基づき特許発明が自明であるとして,両特許の全クレームに対して,IPRを請願した。
 特許審判部(PTAB)は,当業者がShivelyにStoplerを組み合わせる動機付けないとするT社の主張を退け,両特許権の全クレームを無効との決定を下した。T社は,本決定を不服とし,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは以下の判断を行い,PTABの決定を棄却した。
 CAFCは,まずPTABの自明性を理由とする特許無効の判断は,PTABがC社の専門家証言に依拠して,先行技術文献を組み合わせる動機付けを認定したためであるとした。その上で,当該専門家証言に依拠したPTABの判断が,実体的な証拠に基づいているか否かが問題であるとした。
 CAFCは,「根拠不十分な専門家証言に依拠した,自明性を理由とする特許無効判断」を棄却した3件の判例を引用した上で,このような専門家証言を信頼して特許を無効とすることは,KSR最高裁判決が警鐘を鳴らした「後知恵」が許容される懸念があるとし,本事例にも当てはまるとした。
 CAFCは,C社の専門家証言は「Stoplerの位相スクランブラーをShivelyの送信機に組みこむことが,ShivelyのPARを削減するために比較的単純かつ明確な解決策であったこと」を単に述べているに過ぎず,いかなる証拠とも関連付けられていないため,発明時に当業者が先行技術文献を組み合わせる動機付けが存在したことについて,意味のある説明がなされていないと認定した。加えて,PTABは当該証言以外に,先行技術文献を組み合わせる動機付けについて具体的な根拠を示していないと認定した。
 以上より,CAFCはPTABの事実認定が実体的な証拠に裏付けられていないと結論付け,PTABの決定を棄却した。

(臼井 伸也)

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