専門委員会成果物

クレーム中の文言の解釈により文言侵害も均等侵害も認めなかった事例

CAFC判決 2019年12月3日
Plastic Omnium Advanced Innovation and Research v. Donghee America, Inc., et al.

[経緯]

 Plastic Omnium Advanced Innovation and Research(P社)は,Donghee America, Inc.(D社)が実施しているプラスチックの押出成形について,燃料タンクの製造方法に関する特許6,814,921(’921特許)及び窪みを有するプラスチック成形体の製造方法に関する特許6,866,812(’812特許)を侵害するとし,特許侵害訴訟を地裁に提訴した。
 ’921特許及び’812特許のクレームに記載された「parison」という文言について,D社は,押出ヘッドのダイから出た中空のプラスチックチューブという通常の意味と解釈すべきと主張した一方,P社は,特許では「parison」という文言が通常の意味では使われていないと主張した。地裁は,この「parison」について押出ヘッド/ダイの外側に存在するすべてが完全な管状構造であるということに限定することはできないと解釈した。併せて,地裁は,押出ヘッド/ダイの内側で溶融プラスチックや管状プリフォームを分割することがクレームの範囲から除外されると解釈した。
 D社の押出成形システムでは,ダイの内側で溶融プラスチックを分割することから,地裁は,’921特許及び’812特許に対し,D社による文言侵害も均等侵害も認めず,P社の主張を否定した。P社は,この地裁の判決を不服として,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,「parison」という文言の解釈について地裁の解釈を支持すると共に,押出ヘッド/ダイの内側で溶融プラスチックや管状プリフォームを分割することがクレームの範囲から除外されるという地裁の解釈も支持した。
 その上で,CAFCは,’921特許及び’812特許でクレームされた範囲やD社の実施態様について,後述するように認定した。’921特許及び’812特許でクレームされた範囲は,管状の「parison」が最初に押出され,押出の時点又はその後に切断されることを必須とする。一方,D社の押出成形システムは,ダイの内側でプラスチックを分割し,押出されるものは「parison」でなくシートである。これらのことから,CAFCは,’921特許及び’812特許に対し,D社による文言侵害を認めなかった。
 また,’921特許及び’812特許では,均一な壁厚を形成できることを効果として主張している。D社の押出成形システムにより製造された製品は,ダイの内側でプラスチックを分割したことにより壁厚の制御を容易にしたことを効果としている。これらの効果が僅かな差異であることをP社が提示できなかったことから,CAFCは,’921特許及び’812特許に対し,D社による均等侵害も認めなかった。
 以上のことから,CAFCは,’921特許及び’812特許に対し,D社による文言侵害及び均等侵害を認めず,地裁と同様,特許侵害を有するとのP社の主張を否定した。

(入江 弘康)

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