専門委員会成果物

米国特許法第145条による訴訟において,特許庁が代理人費用を出願人に請求することは“アメリカン・ルール”により許されないと判断された事例

最高裁判決 2019年12月11日
Peter, Deputy Director, Patent and Trademark Office v. NantKwest, Inc.

[経緯]

 ナチュラルキラー細胞を利用したガン治療法を対象とするNantKwest, Inc.(N社)の特許出願は,特許審判部(PTAB)により自明であるとして拒絶審決を受けた。N社はこれに対し,米国特許法第145条(145条)に基づき,ヴァージニア東部地区連邦地裁に特許庁長官を被告として訴訟を提起したが,地裁及びCAFCはN社の出願が自明であったとするPTABの判断を支持した。特許庁はこれを受け,「全ての手続費用(All the expenses of the proceedings)は出願人によって支払われるものとする」との145条の規定に基づき,特許庁の代理人費用を含む手続費用の支払いを求める申し立てを提出した。
 地裁,CAFC及びCAFC大法廷は,145条の規定は,「各訴訟当事者は,制定法や契約が別に定める場合を除き,勝敗に関わらず自己の代理人費用を負担する」とするいわゆる「アメリカン・ルール」の原則を覆すのに十分ではなく,裁判所が特許庁の代理人費用を出願人に負担するよう命じることは議会による明確な指示がない限り認められない,として,特許庁の申立を却下した。

[最高裁の判断]

 最高裁はCAFCの判断を支持し,特許庁が代理人費用を出願人に求めることは許されないとした。
 最高裁は,これまでいかなる制定法についても,アメリカン・ルールからの例外を認める見解,又は同ルールに制限を加えるものであるとの見解を示したことは無いことを前提に,145条の規定が,敗訴した行政機関の代理人が相手方当事者に代理人費用を請求できることを意味していると読むならば,従来の慣行との決定的な決別を意味する,と指摘し,アメリカン・ルールは,145条に基づき特許庁が代理人費用を請求することを認めるか否か判断するための起点であると説示した。
 また,145条に記載の「費用(expenses)」という単語は代理人費用を含むものとして理解される余地はあるものの,「手続費用(expenses of the proceeding)」というフレーズ全体は,過去の判例から代理人費用を含むものとして理解されてはおらず,かつ,「全ての(all)」という修飾子が「費用」という単語を代理人費用まで含む意味に変換するものではないとした。
 さらに,費用負担責任に関する種々の制定法において,「費用(expenses)」と「代理人費用(attorney’s fees)」が区別して使用されており,「費用」が「代理人費用」まで含む場合はそのように明示されていることを指摘し,「費用」という単語がアメリカン・ルールを覆すような条文解釈をされたことは無いと述べた。

(木島 正人)

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