専門委員会成果物

明細書の記載から権利範囲の否認を認定した事例

CAFC判決 2019年12月12日
Techtronic Industries Co. Ltd., et al. v. ITC

[経緯]

 Chamberlain Group Inc.(C社)はガレージのドアの開閉を制御するwall console(壁付け制御装置)を備えたガレージドア開閉装置に関する特許7,161,319(’319特許)を保有しており,Techtronic Industries Co. Ltd.(T社)が’319特許を侵害しているとして,特許権侵害訴訟をITCに提訴した。
 ITCでは,’319特許のwall consoleのクレーム解釈について,「人を検知して照明を制御する赤外線検出器を備えたwall console」に限定解釈すべきかが争われ,ITCは赤外線検出器を備えていないwall consoleも含むと広く解釈し,T社は’319特許を侵害していると判断した。
 T社は,’319特許は「赤外線検出器を搭載しない形態」を権利範囲から否認しているため,ITCの判断は誤りであるとしてCAFCへ控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,クレーム解釈はPhillips基準で判断されるが,発明者が通常とは異なる用語の定義や,ある側面は発明に含まないとの記載をした場合,権利範囲を否認したものと解釈できる,と判示した。また,権利範囲の否認は,明確(clear)でなければならないが明示的(explicit)である必要はないと判示し,明細書や審査経過における発明の記載から発明者が権利範囲を否認したか解釈できると判示した。
 これらを踏まえ,CAFCは,’319特許の明細書で,赤外線検出器を天井に備える従来技術は高価で複雑だったためwall consoleに設置したこと,要約部分も含めて明細書は一貫して赤外線検出器を備えるwall consoleを開示していること,wall console以外に赤外線検出器が設置しうる代替手段の開示がないことを示唆し,明細書全体から「赤外線検出器を搭載しない形態」を権利範囲から否認していると判示した。
 ITCは,明細書は,赤外線検出器をwall console以外に設置することが不可能と記載していないと主張したが,CAFCは,権利範囲から否認を認定するためには,ある形態が不可能であるとの具体的な記載までは必要なく,従来技術の欠点や発明の目的等の明細書全体から解釈すべきと判示した。
 以上より,CAFCは,ITCによるT社の’319特許の侵害の決定を棄却した。

(野崎 祐志)

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