外国特許ニュース

〈韓国〉2020年,新たに変わる知的財産制度

 2020年1月5日,韓国特許庁は,オンラインで流通するオンライン伝送ソフトウェアの新たな保護対象化,商標出願のスマートフォンなどによるモバイル電子出願の導入をはじめとする,2020年から新たに変わる知的財産制度を発表した。大きな項目は以下の3つである。

1)第四次産業革命に関する分野の新技術の早期権利化のサポート。
2)知的財産サービスの国民の便宜増進。
3)中小,ベンチャー企業への知的財産基盤のイノベーション成長支援。

 本稿では,上記の3項目の中から韓国において会員企業に実務上の影響が考えられる,上記1)からオンライン伝送ソフトウェアの新たな保護対象化および上記2)から特許・実用新案明細書の提出形式の簡便化について紹介する。

〈オンライン伝送ソフトウェアの新たな保護対象化〉
 当該項目に関しては,2019年12月10日に公布され,2020年3月11日より施行される。
 韓国では,今まではソフトウェアは,CDやUSBメモリなどの記録媒体に保存されて流通されているもののみが特許の保護対象であった。定義について定めた韓国特許法第2条第3号ロ目が改正され,改正前の『方法の発明である場合:その方法を使用する行為』が,改正後は『方法の発明である場合:その方法を使用する行為またはその方法の使用の申出をする行為』となり,その方法の使用の申出をする行為が追加された。また,これを受けて,特許権の効力について定めた韓国特許法第94条に第2項が追加され,『特許発明の実施が第2条第3号ロ目による方法の使用の申出をする行為の場合,特許権の効力は,その方法の使用が特許権または専用実施権を侵害するということを知りながらその方法の使用の申出をする行為にのみ及ぶ。』が規定された。
 このように改正されたことによって,オンラインで伝送されるプログラムも特許の保護を受けることができるようになり,今般のソフトウェアのオンライン化に即した改正となっている。しかし,これに関する特許権の効力は『侵害するということを知りながら』という故意が条件となっていることから,侵害しているか否かを知らないソフトウェアのプラットフォームを提供する者には即座に影響が出ないように配慮がなされたと推察 される。今後は,裁判において故意の判断がどのようにされるかを注視する必要があると思われる。また,『その方法の使用の申出をする行為にのみ及ぶ。』となっていることから,アップロードをしたり,オンラインでの伝送を提供したりする申出側が対象となっており,ダウンロードをする側ではないことにも注意が必要である。
 日本の特許法では,プログラム発明は物の発明として扱われており,プログラム発明のオンライン伝送については物の発明の譲渡等の申出(電気通信回線を通じた提供)として扱われる。一方,韓国ではプログラム発明を直接保護する手段は無かったため,プログラムのオンライン伝送へ特許権を行使することは難しかった。今回の特許法改正によって,故意や提供側といった条件はあるものの,今までは困難とされてきたプログラムのオンライン 伝送についても特許権を行使することが可能になるため,今後の動向が注目される。

〈特許・実用新案明細書の提出形式の簡便化〉
 当該項目に関しては,韓国特許庁ホームページ参照時点では公布がなされていないが,2020年の初めに公布される可能性が高く,その後に施行日が決まるものと思われる。
 現在の韓国の特許法施行規則の第21条には,明細書に,発明の名称,技術分野,背景技術,課題,課題の解決 手段,効果および図面の簡単な説明など,発明の説明を記載するように規定している。このような書式に合わせて明細書を作成するには時間と工数が必要であり,出願が遅くなるという課題があった。

 そこで,特許法第42条の2および実用新案法第8条に規定の特許または実用新案の請求の範囲を記載していない 出願書類で出願する場合,フリータイプの臨時明細書を出願時に添付することができるようにする施行規則の改正案の施行が検討されている。これによって,明細書の発明および考案の説明の書式の緩和がなされ,論文や研究ノートなどをスキャンしたファイルなどを提出することも可能になると思われる。また,出願時には韓国語でなければならないという特別な規定もないことから,日本語や英語などの韓国語以外の言語で作成された書類でも出願することが可能であるとみられている。
 簡便化によって,韓国版の仮出願ともいえる制度が導入されることとなり,施行時期含めて,今後の動向が注目される。 〈参考〉

(参照日:2020年2月5日)

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