外国特許ニュース

インド〉日印特許審査ハイウェイ:インド特許庁に却下される日本申請,受理されるポイントは?(続報)

 2019年12月5日から申請受付が開始された日印特許審査ハイウェイ(以下,日印PPH)試行プログラム(試行期間:2019年11月21日から3年間)1)において,インド特許庁への日印PPH申請件数100件のうち44件が要件を満たさないとして不受理とされた件につき2),本年度8月号の外国特許ニュースにおいて,不受理の理由についての分析結果をご報告させて頂きました。今回は,投稿後,更に追加調査を行う中で見えてきた,「申請者として認識しておくべき課題」と,「改善に向けての取り組み」について,ご報告させて頂きます。
  1. 日印PPH申請不受理についての追加調査の結果
     日印PPHの手続きガイドライン3)によると,「PPH申請の対象となるインド出願に係る発明の技術分野が,電気,電子,コンピュータサイエンス,情報技術,物理,土木,機械,繊維,自動車,冶金のいずれかであること」が要件の一つとなっています。  インド特許庁データベースInPass4)にて行った調査により,2件の不受理事例が見つかりましたが,これら2件のケースは,インド特許庁によって,発明の技術分野がPPH対象ではないと認定された事例でした。
     しかしながら,これら2件の優先権主張の基礎となっている日本出願を確認したところ,基礎となる日本出願について付与されていたIPCは繊維分野(D06M)であり日印PPHの対象であったにも拘らず,その後のインド特許庁での審査において日印PPHの対象となる技術分野ではないと認定されたことで不受理となっていたことが判明しました。したがって,当該2件の不受理事案では,出願人は自己の出願が日印PPHの対象技術分野であると認識して申請を行っていたものと推察されます。
  2. インド特許庁によるIPCの認定
     そこで,日印PPHの手続きガイドライン3)を精査すると,原則として,出願に付与されたIPCが日印PPHの対象IPCコードに該当する場合,当該出願は日印PPHの対象技術分野に関連すると見なされる旨,規定されています。
     しかし,例外として,「IPOが調査及び審査において,発明が実質的に上記技術分野以外の分野に関するものであると判断した場合,出願はPPH審査の対象から外され,非PPH案件として処理される。」と規定されており,日印PPHのガイドライン上でも,インド特許庁によるIPCの付け替えの可能性に言及されています。
     このような,出願に付与されたIPCが後にインド特許庁によって変更されるケースは,日本の出願人にとって予見が難しく,日印PPHの利用可否の判断において困難性を生じさせることが懸念されます。
  3. 改善に向けての取り組み
     上記の日印特許庁間でのIPCの不一致が生ずる可能性のある点については,日印PPHの利便性を高める上で解決すべき課題であると認識し,まず,2020年9月9日開催の日本国特許庁(JPO)-JIPA間での意見交換会において,上記課題認識を共有し,解決に向けた取り組みの必要性について,意見交換を行いました。JPOも同様な課題認識を有していることが確認でき,当該課題の改善に向け,JPO-JIPAとの間で連携を図りながら,インド特許庁に対し働きかけていきます。更に,組織の力を集結させての当該課題解決をめざし,JIPAからは,JETROニューデリーに対しても,追加調査結果及び当該課題認識を共有させて頂き,JPO同様に,解決に向けた共創の機会を窺っていきます。本件は,引き続き,現状を適切に把握し,「課題」をハッキリさせた上で,改善に向けた取り組みを進めていきます。

【日印特許審査ハイウェイとは】
 日本国特許庁において特許可能と判断された発明を有する出願については,出願人の申請により,インド特許庁において簡易な手続きで早期審査が受けられるようになる枠組み。インド特許庁における特許審査の大幅な期間短縮が期待されることから,インドでの早期権利化を図れる可能性があると考えられる有効な出願ルート。

注 記
1) http://www.ipindia.nic.in/newsdetail.htm?593(2020年6月18日参照)
2) http://www.ipindia.nic.in/newsdetail.htm?662/(2020年6月18日参照)
3) http://www.ipindia.nic.in/writereaddata/Portal/News/591_1_PPH_Procedure_Guideline_combined_20191128_final.pdf
第8頁 第2章 2−2(f)
(2020年6月18日参照)
4) https://ipindiaservices.gov.in/publicsearch(2020年6月26日参照)

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