外国特許ニュース

インドネシア，ベトナム編～US Special 301条　監視国の状況

　2020年４月29日，米国通商代表部（USTR）から，US Special301条の最新レポートが発行されました^１）。
　このSpecial301条レポートは，アメリカ合衆国が，知的財産権の保護状況や公平な市場アクセス状況などを調査し，警戒レベルを「優先国」，「優先監視国」，「監視国」の３段階に分けて，その状況を報告するもので，各国における知財保護状況などを読み取ることができます。
　今回，国際第４委員会では，今月号の「南アジア編」と並んで，「インドネシア，ベトナム編」と題し，2020年度版　Special301条において取り上げられた，これらの国について，知財視点から，概要を纏めました。

インドネシア
　インドネシアでは，強制実施権の付与手続きに関する政府規則（規則30/2019）の施行や，オンライン海賊行為に対する取り締まり強化など有意義な進歩がありました。しかし，知的財産権の執行が十分で無く，関連機関の組織的な執行体制の改善が必要とされ，2020年度版でも，「優先監視国」が維持されました。
【米国からの主な指摘事項】
1. ①偽造品・著作権違反（海賊版）について
  　現物市場及びオンラインでのIP侵害行為に対する抑止力の欠如を指摘されています。特に，無許可のビデオカメラ撮影やソフトウェアの無断使用などオンラインでの著作権侵害行為が依然として続いていると指摘されています。
2. ②2016年特許法について
  　第二用途発明の特許性の基準，強制ライセンスの発行根拠と手順，遺伝子資源及び伝統的知識に関する発明の開示要件，既存の商標権に対する地理的表示（GI）の影響についての懸念が継続していると指摘されています。
3. ③医薬品等の販売承認データについて
  　医薬品等の販売承認を得るために作成された未公開の試験データなどの不正な商業利用や不正開示を防止するためのシステムが不十分であると指摘されています。
4. ④市場アクセスについて
  　映画に関する特別措置，医薬品等の国内製造及び技術移転の要件など，市場アクセスの障壁についての懸念が継続していると指摘されています。
【米国からの肯定的なコメント】
　インドネシアでは2019年12月，規則30/2019を発行し，強制ライセンスに関する懸念に対処しました。また，オンライン海賊行為に対する通信情報技術省による取り締まりの強化や業界主導の取り組みへのサポートなど前向きな進展にも言及しています。さらに，海賊版に対する国境取り締まりに関する規制の制定にも言及しています。
ベトナム
　ベトナムでは，国家知的財産（IP）戦略の発行，継続的な啓発キャンペーンなどが評価されました。しかし，知的財産権の執行や，海賊版及び偽造品のオンライン販売は依然として深刻な問題であるとして，2020年度版でも，「監視国」が維持されました。
【米国からの主な指摘事項】
1. ①模倣品・著作権違反（海賊版）について
  　取り締まりが行政手続きに依存し，不充分であるため，依然として現物市場での模倣品入手は可能であり，オンラインでの海賊行為は続いていると指摘されています。
2. ②医薬品の販売承認データについて
  　販売承認を得るために作成された未公開の試験データなどの不正な商業利用や不正開示を防止するためのシステムを明確にする必要があると指摘されています。
【米国からの主な要望事項】
1. ③知財制度（条約批准含む）について
  　ベトナムは現在，WIPOの著作権条約等への加盟準備を進める上で，多くの知的財産関連分野で実施法等を起草している最中であり，利害関係者に有意義なインプットの機会が提供されることが要望されています。
  　また，米国は，米越貿易投資枠組協定及びその他二国間の取り組みを通じて，知的財産問題について引き続き働き掛けていくとしています。
【米国からの肯定的なコメント】
　過去１年間，国家知的財産（IP）戦略の発行，継続的な啓発キャンペーンとトレーニング活動，一部の地域における国境での水際対策の改善の報告など，前向きな進展があったと報告されています。

　国際第４委員会では，今回のインドネシア，ベトナム編に続き，タイやウズベキスタン等についてのSpecial301条関連のニュースも順次お届けします。何か新しい情報があった場合も情報発信します。

監視ランク	優先監視国	監視国
国	インドネシア	ベトナム
国
前年度との比較	優先監視国維持	監視国維持
評価する点	2019年12月，規制30/2019を発行し，強制ライセンスに関する懸念に対処オンライン海賊行為に対する通信情報技術省による取締りの強化や業界主導の取り組みへのサポート海賊版に対する国境取締りに関する規制の制定	国家知的財産（IP）戦略の発行継続的な啓発キャンペーンとトレーニング活動一部の国における国境執行の改善の報告
主な懸念点（改善余地あり）	オンラインでの著作権侵害行為に関する対策 2016年特許法における，第二用途発明の特許性の基準等医薬品等の販売承認データを不正開示を防止するためのシステム強化	市場での模倣品入手に対する対策の強化医薬品等の販売承認データを不正開示を防止するためのシステム強化
主な奨励点	知的財産局（DGIP）を含む，関連機関の執行協力を改善すること	WIPOの著作権条約等への加盟準備を進めること

注　記
1） https://ustr.gov/sites/default/files/2020_Special_301_Report.pdf

（注）｢アジア・オセアニア特許情報｣は，最新とは言えない情報も含め，会員に有用と思われる情報を掲載しています。内容については正確を期したつもりですが，二次情報もあり，必ずしも情報源への確認が充分と言えない場合があります。詳細については会員各位にてご確認下さい。

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